モト

燃えるドレスを紡いでのモトのレビュー・感想・評価

燃えるドレスを紡いで(2023年製作の映画)
5.0
突風で舞い上がるカラフルな古着、『わたしはロランス』みたいだった
立ち止まることと突き進むことは矛盾しない

中里唯馬さん、柔らかな眼差しの奥に、もの凄い熱を秘めたひと…

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「世界には服が飽和している。もう服を作らないで欲しい」
ケニアの現実は、ファッションデザイナーとしての自己を揺るがす(或いはもう粉々に打ち砕いてしまうような)衝撃だったと思う。

帰国後、服を作るという行為自体に懐疑的になっている中里さんに、チームの1人が「そこで見てきた「服」と、私たちがつくる「服」と、何もかもひとまとめにして否定するのは違うと思う」と意見するーー

確かにファッションには、トレンドを人為的に生み出すことで欲望を掻き立て消費を促し、ビジネスを循環させる…という消費社会の権化のような側面もあるけれど、同時に思想、哲学としての側面もある。
ある種の服はスローガンとしての役割を果たすし、価値観をひっくり返したり、時には社会構造そのものを変えてしまう事だってある。

ケニアの古着のゴミ山も、川や海の生態系を破壊する一方で、周辺で暮らす人々の収入源として機能していた。 
物事をひとつの視点だけで判断したり、善か悪かだけで切り分けてしまうのは危うい。

思案ののち、
「パリコレという、ファッション、トレンドの震源地だからこそやれることがあると思う。どう使うか次第」
「シャネルがパンツスーツを生み出したことが女性の社会進出を後押ししたように、ファッションには社会を変える力がある、それを自分は信じている」と語った中里さんの眼差しが印象的だった。

「お金じゃなくて、自分たちの手足を使って、目の前の課題を解決することに、自分の人生の時間をどれくらい使えるか」

ショーの後、
「人間が何かを生み出すという行為そのものを否定するのはやめようと思った…問いを投げかけ続けよう、と」
と語り、早くも次のコレクションの構想を語り始めた中里さんの、晴々とした表情がとても良かった。

自分が感じ考えたことを、ファッションに翻訳し、社会に問いとして投げかけること。
「あなたはここに来て何を見て学んだの?そして何をするの?」
という問いへの、ひとつのこたえ。

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「服作りってチームでやるもの。バジェットは既にギリギリいっぱい使ってる、メンバーにもかなり負荷をかけてるし…余剰が作れるとしたらあとは自分の体力くらい」と語った背中も印象的だった。
半年スパンで狂ったお祭りみたいな地獄を繰り返し続けてるファッション業界えぐい……
徹夜明け、まだ薄暗いオフィスで、「上に立つ人間は誰より自分を犠牲に出来なきゃいけないからね」と語った上司の姿が重なって見えた。
人一倍の覚悟と信念と情熱と…カッコ良すぎるよ全く……

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それにしてもロストバゲッジにはドキドキを通り越して私まで怒りを覚えてしまった!
よりによってフィナーレを飾る衣装がなくなるなんて、あまりにも映画的で。
高熱で遠のく意識と砂漠、突然音信不通になるパタンナー、クソみたいなエアタグ…
事実は小説よりも奇なりというけれど、ほんとうにほんとうに……
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