minami

かくしごとのminamiのレビュー・感想・評価

かくしごと(2024年製作の映画)
2.9
観る前に配られたリーフレットに書かれたあらすじを見て予想していた感想と、見終わって抱いた感想が違うことに自分でも驚いた。

「その嘘は、罪か、愛か」というキャッチフレーズがいろんなところで使われているけれど、観る前は「そんなん絶対愛じゃん」って思っていたのに、鑑賞後は結構罪深いなと。

ドラマ『mother』とは違い、擬似親子となるふたりの間にはなんの関係性もなかったから、「今日帰ったら敬語はやめようね」とかなれなれしく接してくる千紗子に「グルーミングじゃん!」とぞっとしてしまったのだ。
(しかもこれ以上はネタバレになるから避けるけど、状況が状況なのだ)

でも見終わったあとで友だちと話していて思ったのは、彼女が過去に体験した壮絶な記憶とどうしても埋められない喪失感があるから、そういう歪みがあるのも仕方ないのでは、と。

たしかにその考えも鑑賞中から脳裏をかすめてはいたのだけど、なぜだろう。
なぜか厳しい目で彼女のことを見てしまっていた。
映画って本当に鑑賞後、人と感想を共有することでより一層深くまで浸ることができるよね。

完成披露試写会で観たので、主要キャスト陣+監督が登壇するという豪華な舞台挨拶もあったのだけど、杏さんが何度も「立場によって感想が変わると思うから、いろんな人とどう思ったか話し合ってみてほしい」といったことを言っていて、本当にそうだよなぁと実感した。

私に出産や育児経験があれば、もっと千紗子に心を寄り添わせることができた気がする。

あと思ったのはラストシーンのふたりの姿。
あれをだれだと思うか、あるいは現実と捉えるかそうでないかによって、心理テストのように、その人の思考やこのストーリーにどこまで思い入れられたかが見えてくるような気がした。

安藤政信さんが何度も「できることならこの主人公役を自分が演じたいと思った」って言っていた(監督も「最初良質なジョークかと思ったら本気みたいなんですよ」と補足していた笑)のと、意味わからん杏さんの頭身バランスが舞台挨拶のハイライト。

おもしろかったし、いろいろ話したくなる映画でした。
ちょっと説明しすぎ感はいなめなかったけれど。
もう少し視聴者の想像力を信頼してほしい。

原作は『嘘』なのに『かくしごと』としたのは、千紗子の職業ともかかっているのかななどと思った。(たぶん違うけど)
書き物屋さんって、べつに自身を切り売りしなくても大なり小なりなんらかのかたちで自分が表出するものなんだよな。

かくしごとをしたまま書く仕事をするのはなかなか難しい。
でもたぶん、一番かくしごとがうまい人種のような気がする。
minami

minami