レインウォッチャー

モアナと伝説の海2のレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

モアナと伝説の海2(2024年製作の映画)
3.5
「今いる場所を、今までいた場所から知る」。

これは前作『モアナ』で印象的だった言葉の一つである。モアナに航海術をレクチャーするマウイの台詞であり、「先人から受け継いだものに敬意を払いつつ全く新しい未来へ進むことを恐れない」という『モアナ』の(そしてもしかしたら当時のディズニー自体の)物語全体を流れるテーマとも結びつく。

そして今作もまた、この教えを引き続き徹底するかのような、非常に「手堅い」印象が残る続編であった。
真新しくフレッシュな試みが見られる作品ではないものの、前作の遺産を細かくすべて真っ当に使って『モアナ』らしい『モアナ2』を提供してくれている。 当初は配信の連続アニメシリーズを前提として進んでいた企画ということだけれど、全体の構成に破綻はない。

また、「シンプルに色々増量した"2"」でもある。冒険も、キャラも、ギャグも、歌とダンスも、とりあえずコピペ&等倍拡大で増量。手堅さを守りつつ物量で押し切って、少なくとも観ている間は飽きさせたり突っ込ませたりしないという、もはや臆面もなく守備にまわったディズニーのカタさを実感する。 なにせ『白雪姫』の大爆風に備えなければならないわけだから…

ストーリーの大枠も前回と同じ「行って帰って来る話」といえるわけだけれど、それ故に気づく変化もある。それは、経過した年月に見合ったモアナの心身の成長である。

前作では未知の大海への憧れをストレートに表現し、好奇心と情熱に突き動かされるように旅立っていったモアナが、今回は村人をはじめとする他者からの期待を背負って、明らかに責任ある行動を求められる。キュート極まりない妹ちゃんを時には諭さねばならなかったり、船の上ではチームを率いる難しさに悩んだりする姿が印象的だった。

ルックスにも成長が反映されていて、顔立ちの微妙な変化やうっすら筋肉が表現された身体など、ちゃんと「大人になっている」ことがわかる。前作から現在に至る相応の時間経過を、現実世界でわたしたちが過ごしてきたのと同じようにモアナも経験しているように思えたのだ。

つまり本質は同じ「行って帰って来る話」であったとしても、得られる内面の動きには違いが生じ、観客側のライフステージの変化に合わせてリンクをとる工夫が為されているということなのだと思う。
ゆえに、後半でモアナを励ますマウイの言葉と歌にはいまの自分としてかなりグッときてしまったり。前作では《男らしさ》というナルシシズムに振り回されていたマウイの成長もまた感じられ(他人のケアができるようになったなんて!)、感慨深い。

正直なところ、他の多くの新キャラは出オチか空気にしかなっておらず、本来の構想だった配信版ではもっと活躍できてたはずなのかな…?とか想像してしまって惜しい。
とはいえ昨今のディズニーさんがドロップしてきたリメイク系作品のアレコレにおける狼藉の数々を思い返せば、既存の世界観を無駄に汚さず、大人しくしてくれているだけでもとりあえず心安いといえるかもしれない。不健全な納得法ではあるけれども。

ともあれ今作で前回の遺産は搾り尽くした感があるし、今作の結末を踏まえるとモアナたちにとっては今後こそが難しい局面といえる。
人々を分断することで自らの領分を維持しようとする今作のヴィラン・ナロのやり方はバベルの塔の昔から変わらない「神らしさ」であり、現実の様々な情勢を思い起こさせるけれど、離れていた人々が繋がることで利益だけではなく争いが生まれてきた(特に~ネシアとかはどこも)のも歴史上の事実。『3』があるとすれば更にオトナになって、そんな難題に立ち向かう本当に新しいモアナたちが観てみたいところ。

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ヘイヘイは本当にかわいいな。くれ。