このレビューはネタバレを含みます
蜘蛛はそのままで十分怖い。
蜘蛛、虫の不快感を的確にホラーにしすぎている。
同じ地球の生物なのに、人間からしたら遠い虫を不気味に感じる人も多い。デザインや素材の遠さもあるし、小さく動き回る姿も恐ろしい。それを、パニック映画ではなくホラーとして扱っているのが面白い。この映画に登場する蜘蛛は、勝手に増殖するしありえないスピードで大きくなっていく。それは現実離れしたフィクション要素だ。でも、それ以外のことりあを怖がらせる動き方は、現実と一緒。その現実にもある部分をホラーだと扱っている。特に、通気口からたくさんの蜘蛛が侵入してくる姿を鏡越しにぼやけさせて映すシーンは上手すぎる。そして、大量の蜘蛛が飛び出すシーンが何度もあるが、こんなに怖いものを平気で何度も見せてくるこの映画の人でなしっぷりもすごい。怖がらせる、嫌がらせることに容赦がない。箱や穴から沸く様子や、人の体を這う様は、何回見ても怖かった。驚いて声が出てしまうところもあった。
ただ、終盤も蜘蛛の恐怖のエスカレートを期待したが、最後は警察の拘束や銃撃から逃れることが課題になって、蜘蛛の怖さはサブみたいになったのはちょっと寂しかった。あと、前半で犬が蜘蛛の死骸を食べたのが、そのあと何もなかったのも気になった。犬がおかしくなってしまう描写が後半にあるのだろうと思ったんだけど。
仲間思いだが不器用な主人公。
主人公は、自分が暮らしてきた団地への思いが強い。怪しいお店に虫を買いに行っているグレーな様子から、危なっかしい無法者にも見える。しかし、実際は一部から勘違いされているような違法薬物の売人でもないし、団地で迷惑をかける年下をしめていて、彼なりに秩序を大事にする人間でもある。しかし、彼はかつての親友や妹との不仲を解消できずにいる。自分の大切にしているものがぞんざいにされたと思ったとき、彼は相手を断ち切って、あとの残ったものだけ大切にして閉じこもっている。だから、ラストで団地ごと爆破処理されて、彼や同士の大切な場所は壊されてしまったけど、あの建物への執着こそ主人公が乗り越えるべきものだったんだと感じた。あの団地に蜘蛛が入り込んで大惨事になったように、ずっと安全な場所に閉じこもっていようとしても、安全は脅かされる。だから、もっとオープンに、自分の安全なところにこもらずにいた方が、形が変わっても思いは残る。結果的には、それを叩き込んでくれるための蜘蛛くんたちだった。