罪のグラデーションに"積み"ゲー
「転売」という薄くてセコい罪を重ねていた男がより強大な罪の力に引き寄せられるまでのストーリー。
安く瀬取りした医療機器を高く出品した後の菅田将暉演じる吉井の動きが、ハードボイルドなフィルムノワールの雰囲気を感じさせる。図らずも「悪は存在しない」と似た舞台設定になっていく感じのある中盤のサスペンスがおもしろかった。独立した空間なのに他の誰かがいるような不穏な演出の数々、全員が等しく悪であるため緊張が抜けない空気感にヒリヒリする。脇役もいい感じのキャスティングであり、矢柴俊博演じる警察官がいい味出していた。
後半は打って変わってガンアクションへ移行する。西部劇、香港映画、日活ヤクザ映画などさまざまな要素を取り入れながら進行していく拳銃を使った演出の豊かさが光る。小ネタ的なオチも含めてB級感があり、ツッコミ所多め。千葉哲也演じる猟師の登場シーンは白石晃士映画かと思った。
黒沢清カラーが強めな作品で、一度黒く塗られたものは2度と白に戻れない悲哀を描いた終盤がクール。「転売」も罪の濃淡で言うと薄いだけで、「殺人」と地続きなんだなあ…。
"富士丸"こと松重豊のワンシーンだけの登場も黒沢清作品だからこその緊張感&印象的な場面。
まあ、あまりにリアリティがなく、「転売ヤー」を主題に映画を!?という当初のワクワク感は簡単に裏切られる作品だが、単なる「転売はびこる現代社会批評」映画ではなく悪そのものを描いてみせており、邦画では珍しいアプローチで満足。