プロットは割と破茶滅茶な急展開。なんかいきなり画角が斜めになったり邪魔な柱が映り込んだりもする。キャラの行動原理は到底理解できないし、台詞は熟語を多用する感じが丁寧すぎて血肉が通っていない雰囲気がマシマシ。でも、いやだからかずっと不穏で不安。
多分他の人がやってたら凡作に観えてしまったかもしれない。でも作り手は黒沢清なのだからということで説明がつく。これぞ作家性であり、巨匠に甘いとかそういうことではなく「誰が言ってるのか?」で印象が変わるのはごく自然なことだと思う。
そうなるとあとは監督のサービス精神に乗っかって怖がればいいだけ。半透明カーテンひらひらも車窓スクリーンプロセスも平常運転的に披露され、いつも通りゾクゾクするのだけれど特に際立ったのは「ぶーんぶーん」の不快音。
1回目に耳についたのは窪田正孝先輩とボドゲやってるところ。2回目は主人公カップルが新居についてキャッキャ喋るバスのシーン。前者ではその流れで転売屋逮捕の説明がなされることが転落のフリになってるし、後者なんて久々に声出るくらいビビるシーンの前兆になってるからやっぱり意図的なんだと思い返して感嘆する。Jホラー演出の始祖はご健在だった。
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台詞まわしは説明的なくせに、全体的には余白たっぷりであくまで映画的なスタンスをとってるのも相変わらずで考察のしがいがある。
主人公の吉井は上司や先輩の(多分悪い)誘いを悉くかわす。そして求めたのは彼女との平凡な幸せだったがそれを獲得するための食いぶちを持っていなかったため、悪行に手を染める。
そこに待っているのは逆恨みのオンパレード。実は吉井が刑事罰的にやらかした相手は偽ブランドバッグの件における岡山天音さん演じる三宅だけなような感じもあるのだが、彼自身は野次馬的な雰囲気で他の殺意が高い奴ほど意味がわからなかったりするからやってられない。
んでもってラストに襲ってくる相手こそそんなウンザリの極地であり、それを救ってくれた佐野との行き着く先はそれこそ地獄の螺旋な感じがしている。だって明らかに反社会的だし、彼が褒めてるのは吉井の拝金能力だけなんだから。結局は学校、会社、家庭それぞれの連帯が勝手に亡くなって金だけ残った感じ。
終始、吉井はそうなってもしょうがないよね的な感じもうっすら保ちつつその印象も一理あるからこそ不条理が現実的で解像度が高い。「いやいや私はこんな事にはならないよ」とか思ってると危ない気もする。
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ちょこちょこ掲示板描写とかが古いかなと感じたのは事実だけれど、70手前の監督に言うのは酷だしより若手でもっとネット描写が古い人は国内外含め全然いると思う。