工場で働く傍ら、転売でコツコツと稼ぎを得ている吉井。社長から昇格を打診されたタイミングで工場を辞め、恋人とともに郊外の湖畔の家に越し、転売業の手伝いとして佐野という青年を雇うほどの順調ぶりだったが、そんな吉井の生活は常に不審な影に付きまとわれていた。
↓ネタバレ
無駄にというか、なんというか、キャストが良すぎてちょっと困る。
社会問題でもある嫌われ者の転売ヤーをテーマにした作品。しかしこれは「悪質な転売ヤーが報復に遭う物語」でありながら、「無自覚に多方面へばらまいた悪意が社会の闇を吸い上げ、狂気の集合体となったときの恐ろしさ」を描いてもいる。
誰かの自分への好意にも、信頼にも、転売で扱う商品にも、その生産者にも、それを欲する消費者にも、等しく無関心な吉井。恋人の秋子のことも、きっと好きは好きだと思うが、都合のいいときだけ可愛がって、お人形のように扱っているような印象があった。
そんな吉井だから、これまで雑に扱ってきたすべての人間の怒りを買ってしまう。爆発して当然の怒りも、ただの逆恨みもあるが、この現代でも主にインターネットの中にびっしりとはびこる、深刻で強烈な悪意の象徴が彼らだ。
そして佐野こそが、より深いところを漂う悪。裏社会との繋がりが示された彼のことすらも吉井は見抜けずに侮り、見下していたが、とうとうアウトローである佐野の手中に落ちてしまった。
この騒動を引き起こしたのは村岡だと吉井は思っているが、実は佐野だったのではないか。佐野は吉井よりもずっと早く「ラーテル」を憎む者たちに気づいていたのだから、彼らを扇動し、襲わせ、吉井には銃で対抗させ、人を殺さざるを得ない状況を作り上げ、自分がアシストして裏の世界に引っ張り込む。シナリオとしては完璧だ。果たしてひとりを仲間にするためにそこまでするか?とも思うが、からっぽの吉井は都合がよかったのかもしれない。
グレーでコツコツ稼いでいた吉井が、これからは真っ黒の地獄へ。
こういうことになりかねませんから、転売ヤーの皆さんはどうぞいい加減やめてくださいね。