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ルックバックのTakihaRe9uieNのレビュー・感想・評価

ルックバック(2024年製作の映画)
4.5
「過去を悪く思わないで」

⚪︎あらすじ
 小学四年生の藤野は学校新聞に4コマ漫画を掲載し、それなりに画力を評価されていた。しかしある日、不登校の同級生である京本も漫画を掲載したいとの要望があり、彼女の漫画が掲載された結果クラスメートの注目は京本の漫画に移ることになった。藤野は京本の画力に近づこうと努力をしたが周りの環境との両立ができず諦めることに。そして小学校卒業式の日に担任の先生が卒業証書を京本の家に届けて欲しいと言われた。この出来事によって二人の少女の運命が動き始めたのだった。

⚪︎⚠️ネタバレ感想⚠️
 「チェンソーマン」などで有名な漫画家、藤本タツキ先生がジャンプ+に掲載した読み切り漫画が原作の60分の短編作品。

 原作は未読でしたが十分堪能できたと思います。漫画が好きな二人の女の子の青春映画と思っていましたが、思わぬ方向へ進んでいく作品でしたね。でも二人の関係性が本当に好きでした。

 藤野と京本は学級新聞の4コマの掲載でお互いを知るという、普通ではない出会い方をします。藤野はその画力とアイデアでクラスメートにチヤホヤされていましたが、京本の登場により劣等感を感じるようになっていくといったキャラクターでした。

 藤野のブラックジョーク効いた漫画好きですね〜、てかほぼタツキ先生の漫画もこんな感じだよな・・・。
 
 一方どう思われているかも知らずに一方的に藤野の漫画に引き込まれていく不登校の京本は藤野とは対照的に描かれていたと感じました。引っ込み思案でコミュ障ですが漫画への熱量は藤野と同格でした。京本宅にはたくさんのスケッチブックが山積みになっていました。

 自分の才能だけの人物ではなかったからこそ藤野と同等の関係になれたのだと感じましたし、共通の話題を同じ熱量で語れる友人はやっぱり大切ですね。

 物語は後半に迎えて大きく転じることになります。藤野のおかげで世界が広がった京本は美術大学への進学を希望します。ここで漫画の連載を手にした藤野とは別々の道へ進むこととなります。

 しかし、進学先の大学で京本は無差別殺人犯の手に掛かり亡くなってしまうのです。ここのシーンは本当に衝撃的でめちゃくちゃに喪失感に襲われました。この設定は映画の知識にも造形が深い藤本先生がクエンティン・タランティーノのファンなので「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」から影響を受けていると明かしています。

 「ルックバック」の直訳は過去を振り返るという意味を持ち、藤野は京本の死を、彼女を外の世界へ連れ出してしまった自分に責任があるという罪悪感に苛まれてしまいます。初めて会った日の4コマが伏線になっていたんですね。背中を見るという意味でもこの映画は京本に焦点が当たる作品になっていたんですね。

 回想の中で京本に「藤野ちゃんはなんで漫画を描いているの?」と言われるシーンがありました。藤野は自分と同じ「漫画への熱量」を持つ京本に4コマを褒められたことがきっかけで離れていた漫画への思いが再熱していたと思います。藤野は京本のため、漫画の連載再開のためペンを持ち後ろ姿のままエンドロールが流れます。

 原作では冒頭のシーンで「Dont」、最後のシーンで「In Anger」の文字が確認できるらしいです。これはアメリカのロックバンド「OASIS」の「Dont Look Back In Anger」という曲を表現していると思います。
 
 この曲の歌詞の一部には「My soul slides away “But don’t look back in anger” I heard you say」という歌詞があります。直訳すると「彼女の気持ちが離れていく、でも「過去を悪く思わないで」って俺にはそう聞こえたんだ」となります。

 この一文はこの映画をまんま表現していると思っていて、京本の死で漫画への熱意が離れていくかもしれないけど、京本と一緒に漫画を描いていた日々は決して悪い思い出ではなく、良い思い出として自分の心の中で大切にして欲しいというメッセージだと感じました。

 藤本タツキ先生の漫画がまるで生きているかの如く動くアニメーションは本当に感動的であり、明日も頑張ろうと思える活力が湧く、切なく純粋な青春ストーリーでした。原作も見てみたいと思いました。
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