2024年300本目
懐かしさと新しさと
SFホラーの金字塔『エイリアン』の“その後”を舞台に、エイリアンに遭遇した若者たちの運命を描くSFサバイバルスリラー
舞台は、『エイリアン』と『エイリアン2』の間の時代。人生の行き場を失った6人の若者たちは、廃墟と化した宇宙ステーション「ロムルス」を発見し、一攫千金を夢見て探索を開始する。しかしそこで彼らを待ち受けていたのは、寄生した人間の胸を突き破り、異常な速さで進化する 「エイリアン」だった。しかも、その血液はすべての物質を溶かすほど強力な酸性であるため、攻撃は不可能。逃げ場のない宇宙空間で、次々と襲い来るエイリアンに翻弄され極限状態に追い詰められていく6人だったが……。
監督を務めたのは、『ドント・ブリーズ』のフェデ・アルバレス。シリーズの創始者であるリドリー・スコットが製作として参加している。出演は、『プリシラ』のケイリー・スピーニー、『ライ・レーン』のデビッド・ジョンソン、『もうひとりのゾーイ』のアーチー・ルノー、『マダム・ウェブ』のイザベラ・メルセドなど。
ロッテントマトで批評家スコア80%、観客スコア85%を獲得し、日本公開までに全世界興収は約2億9,000万ドル、『エイリアン』シリーズ第2位のヒットを記録した本作。研ナオコさんの爆笑必至のプロモーションも相まって、日本でのヒットも期待できそう。
本作は、シリーズを牽引したシガニー・ウィーバー演じるリプリーは登場しないが、リドリー・スコットの手掛けたオリジナル作品を筆頭にこれまでのシリーズ作品への強いオマージュが感じられる一作で、80年代のSFホラー映画の手作り感を意識したレトロなデザインと特撮の使用により、シリーズの原点回帰とも言えるアプローチが取られている。2142年という時代設定ながら、80年代のSF映画に登場したようなハイテク機器やモニター、計器類などが多数登場し、シリーズファンには懐かしさを覚える当時のデザインの美学が踏襲されている。
ストーリーは、太陽のない惑星で農業労働を強いられる主人公・レインの過酷な生活から始まる。彼女の絶望的な状況は、未来社会におけるユタニ社の非人道的な労働環境を描き、ディストピア的な要素が強く反映されている。レインと彼女の仲間たちは、脱出のために廃船に乗り込み、太陽のある惑星ナヴァーガへ向かうというミッションに挑むことになる。この設定は、『エイリアン』シリーズで繰り返される、限られた空間でのサバイバルというテーマを引き継いでおり、シリーズの根幹を維持している。
フェデ・アルバレス監督は、『エイリアン』シリーズの伝統をリスペクトしながらも、独自の作家性を持ち込んでいる。中でも、エイリアンと人間だけでなく、人間とアンドロイドの「感情」をテーマにした対立を描き出し、選択の過ちが「感情」によって引き起こされるという哲学的な問いかけが盛り込まれている点が新鮮だ。また、『ドント・ブリーズ』で見せた閉鎖空間におけるスリラー的要素はもちろん、タイムリミット・サスペンスや静寂と轟音の対比といった演出を用いることで、最後の最後まで物語に緊張感を持たせている。
レインとその仲間たちvsフェイスハガーやゼノモーフとの戦いは壮絶で、手に汗握るアクションを存分に楽しむことができる。特に、無重力状態を活用してゼノモーフを撃退するシーンは、アイデアに富んだ演出が見られ、視覚的なインパクトも絶大。残酷なシーンも数多くあり、仲間が次々に犠牲となる様子を見てビビり散らかした。
本作はシリーズの過去作に対するオマージュやリスペクトを多く含む一方で、独自性を後退させている面もある。大胆な新解釈やストーリーの革新よりも、伝統的な『エイリアン』像を守っているところは保守的に映るかもしれないが、シリーズの原点を大切にする姿勢には好感を持った。