SANKOU

めまいのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

めまい(1958年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

ヒッチコックの映画の中でも特に意外性のある作品で、二転三転するストーリーに観客の視点は狂わされ見事に騙されてしまう。
ある事故から高所恐怖症になってしまった元刑事のスコティは、友人エルスターの頼みで妻マデリンの尾行を頼まれる。
ずっと昔に亡くなったカルロッタという女性に取りつかれているという彼女はまるで夢遊病のように美術館や教会を訪れるが、その時の記憶をなくしてしまっている。
しかも発狂して自殺したカルロッタという女性と同じく、マデリンにも衝動的に自殺をしようとする傾向があった。
この設定からも今までのヒッチコック作品にはなかった新しい展開で、この後ストーリーがどのように進んでいくのか見当がつかない。
スコティが彼女を一目見ただけで恋に落ちてしまったのは確かで、人妻であるのを承知で彼女に想いを打ち明ける。
マデリン自身もスコティに引かれてしまうが、彼女の中に巣食う何者かがその感情を拒絶させる。
「本当に愛しているの。でももう遅い」と言って教会の階段をかけ上がるマデリンを追うスコティだが、高所恐怖症の彼は階段の途中で動けなくなってしまい、気づいた時にはマデリンは鐘楼から飛び降り自殺をしてしまった。
失意の底から立ち直れないスコティは鬱状態になり、街をマデリンの面影を探してさ迷う。
そこで見つけたマデリンそっくりの女性。こっそりと後をつけアパートの部屋をノックし、話をしたいと懇願するスコティ。
普通の神経を持っていたら例え似た女性を見つけても部屋にまで押し掛けはしない。その兆候は前からあったのだが、このスコティという男は自分がこうと思ったところは相手がどう出ようがおかまいなく通そうとするところがある。
すでに初老といっていい年なのに結婚歴もないスコティ。
これまでの展開ではミッジという一時期婚約までしたが解消して、それでも友情を途切れさせなかった存在がいたのであまり気にならなかったが、スコティが意中の女性に対して見せる感情はとても衝動的で幼く感じる。
実はジュディと名乗るこの女性とスコティがマデリンだと信じていた女性は同一人物で、エルスターが妻を殺すための偽装にスコティは利用されていたことになる。
スコティを心の底から愛してしまったジュディは、逃げるのではなく再び別人として彼との関係を築くことを決意する。
しかし、ジュディをマデリンに見立てようと彼女に要求するスコティの異常さに逆らえなくなった彼女は、徐々にマデリンを演じていた頃の姿に戻されていく。その姿になれば頑なに手も触れない彼がもう一度愛してくれると信じて。
とにかく自分の理想の型に女性を当てはめようとするスコティの行動はやはり常軌を逸しているのと、年齢の割には心が未熟だと言わざるをえない。
おそらく今までの人生でも女性経験は乏しかったのだろう。
髪をブロンドに染め、グレーのスーツに身を包んだジュディの姿はマデリンそのものであり、彼はようやく彼女を抱き締める。
このまま物語は終わるかと思えば、またもう一捻りあって、最後にスコティの真意が分かることになる。
本気で愛してしまったが故に起きた悲劇であり、ラストは何とも言えない後味の悪さが残る。
教会の螺旋階段のシーンが印象的だが、この映画も螺旋階段のように捻れた構造を持っていて、観客の感情移入する人物が変化していくのと、登場人物の思惑と行動に矛盾が生じ、でも後戻り出来ないところまで話が進んでいく様がとても複雑だった。
スコティがめまいを起こした時のカメラの動きがとても効果的で忘れられない作品になった。
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