早見沙織信者

YOLO 百元の恋の早見沙織信者のレビュー・感想・評価

YOLO 百元の恋(2024年製作の映画)
3.4
 ボクシング映画というと、役作り、つまり体形から実際の技能までの作りこみが話題になりがちだが、本作はある意味ひとつの極致ではないかと思う。
 予告を見た時点では、CGか特殊メイクで肥った姿を撮影しているのかと思っていたのだが、この監督兼主演のジア・リンという人、もともとが減量前の姿なのであった。つまり、減量前に映画の製作を始め、撮影しながら徐々に体重を落とし筋肉をつけていったらしい。ちょっと正気の沙汰とは思えない。だって自分が本当に減量が成功させられるか、ボクシング技能が身につくか、保証なんてないわけだから。

 映画自体は、そこまでやった甲斐もあったという出来栄えだと思う。特に試合シーンは『春に散る』あたりと比較しても遜色ない素晴らしいもの――カメラがロープの後ろに下がり、ひたすら叩かれるジア・リンをとらえつづける長回しとか――と思うが、ちょっとケチをつけたいのが、終盤で倒れてからの回想シーンの数々。追加の情報もあるけど、わざわざ後になって追加することない(その時点で描けばいい)し、総じて必要性が乏しい描写と感じた。ここで間延びしてしまうのが、試合シーンの余韻を削いでいる。
 ただ、試合を見た妹の描写、続くライ・チァインとの会話シーン(徐々にカメラが引いていく)などの醒めた感覚は個人的に好ましく、この監督の作品ほかにも見てみたいなと思った。エンドロールも可愛らしい。