netfilms

化け猫あんずちゃんのnetfilmsのレビュー・感想・評価

化け猫あんずちゃん(2024年製作の映画)
4.1
 11歳の女の子かりんちゃんは浮かない表情で父・哲也と駅の改札を出る。父親は夏休暇を利用して娘を南伊豆の実家のお寺へと連れ帰るのだが、かりんちゃんはこんな田舎になんか来たくないのだ。おまけに寺にはあんずちゃんという猫の擬人化のような立派ななりをしたおじさんがいて、お前みたいなよそ者はさっさと帰れとか言うのだから。厄介払いされたかりんちゃんは更に不幸なことに、借金取りに追われる父・哲也が迎えに来るまでこの街に居ろなどと命令されるのだ。正に踏んだり蹴ったりの状況の中、ヒロインの冒険譚の幕が開く。子供向けアニメに見えて、最初から子供向けではない。宮崎駿を連想する人もいるかと思うが、完全に相米慎二の『お引っ越し』でそれ以上でも以下でもない。彼女の母親は3年前に他界し、父は借金取りに追われるクズ。11歳でおそらく一人っ子のかりんちゃんはこれからの人生を想うとただただ絶望する他ない。然しながらこの街の人々はどこかシュールなダメ人間ばかりだ。37歳になっても、寺の住職さんの元に寄生する化け猫のあんずちゃんは完全に山下敦弘の『もらとりあむタマ子』を彷彿とさせると書こうと思ったら、今作のW監督の一角には当の山下敦弘がいて妙に納得した。

 岩井俊二の『花とアリス殺人事件』のロトスコープアニメーションディレクターを務めた久野遥子の天才的なグラフィックが今作では見事に炸裂している。それと共に山下敦弘の作劇そのものも今年4本目の監督と言うことだが、正直ここ数年の劇映画の中でも出色の出来ではないか。互いが互いの持ち場で才能を発揮した今作の脚本は実はいまおかしんじその人である。いましろたかしの原作を、いまおかしんじがリライトした物語は(平仮名ばかりで大変ややこしい!!)、良い感じに成仏出来ずに居る化け猫あんずちゃんと、まだ現世に居て欲しかったママとを対角に据えるのだ。誰かとコネクトしたいかりんちゃんの目論みは次々にはしごを外され、その一方あんずちゃんのガラケーには誰からもまったく電話がない。久野遥子の提唱するロトスコープなるアニメ手法では、主人公の髪色が紫という辺りもおそらく日本のアニメーションでは前例がないのではないか。呑んだくれるばかりの妖怪メンバー(そこには貧乏神も含まれる)のダメさ加減が地上で生きている人間のダメさの範疇を越えている辺りが、正にダメ人間たちの愛すべきダメ映画で、あんずちゃんよりもこの世界で長く生きる我々は、この世界に絶望するあんずちゃんに渾身のラスト・パスを出そうとするのだが、なかなか上手く行かない。中盤以降の現世と地獄の逃走劇はまさかの活劇と化す。これはアニメーションながら、3人の才人が適材適所で力を発揮した力作ではないか。
netfilms

netfilms