MasaichiYaguchi

とりつくしまのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

とりつくしま(2024年製作の映画)
4.0
長編デビュー作「ほとぼりメルトサウンズ」で注目を集めた東かほりさんが監督・脚本を手がけ、自身の母でもある作家・東直子さんの小説「とりつくしま」を映画化した本作を観ていると、登場人物たちの既に失われた人生の掛け替えのない記憶が蘇り、切なさと温かさと哀しみ、そして少しのおかしみが滲み出て、心の琴線に触れてくる。
人生が終わってしまった人々の前に現れる“とりつくしま係”は、「この世に未練はありませんか。あるなら、なにかモノになって戻ることが出来ますよ」と告げる。
夫のお気に入りのマグカップになることにした妻、大好きな青いジャングルジムになった男の子、孫にあげたカメラになった祖母、ピッチャーの息子を見守る為に野球の試合で使うロージンになった母、人生の本当の最後に、モノとなって大切な人の側で過ごす時間がファンタジックに描かれていく。
亡くなった人がとりつく物「とりつくしま」が、こちら側とあちら側の架け橋となり、かたちを変えて大切な人のそばにいたり、最後のお別れをする物語は切なくも、何とも言えない温もりを残します。