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キラー・インサイド・ミーのotomisanのレビュー・感想・評価

キラー・インサイド・ミー(2010年製作の映画)
4.0
 アフレックの呟く裏声が蚊の鳴くような調子で、聞いているうちに、これが「人殺し」 上っ面はテキサスの常人で紳士を装った医師の息子、生業は保安官助士の男ルー、こいつのこころの獄で締め付けられてる「人殺し」の声かと感じられてくる。
 そんな気がし始めるのは、最初の殺しのだしにジョイスを痛めつけたあたり。あんな真似はしたくないし殺したくもないんだそうだ。それでも、かつて事故に見せかけ兄を殺めた怨敵エルマーを殺すのに捜査を攪乱させる証拠操作上ジョイスは格好のポジションだから、死ぬのはしかたがない。のだそうだ。
 ところが、初めての殺しとあって情が移っていけない。だいいち、そもそもこのジョイスこそ「人殺し」が日頃の締め付けを撥ね退けて男一匹となった運命の女じゃないか。

 この怖いものなし、じゃじゃ馬女が上品ぶった保安官助士の上っ面を張り飛ばしてくれなきゃ、こちとらぁ何時になっても浮かぶ瀬もなかったろう。ところが、天の配剤か保安官の使いで夜鷹のジョイスへの退去勧告に向かわされてみりゃあどうだい、こいつがオレ好み。暴れるヤツを抑え込んでケツの十か二十も打ち据えてやりゃあ荒馬だって懐くわ。すっかりいい仲になって、婚約相手の事も上の空。上っ面生活に飽き飽きなそんな折、知れたのがこの女のもう一人の相方で金蔓エルマー。これで、俄然雲行きも変わってくる。

 さあ、一人殺せば「殺し屋」の性にも火が着いてくる。保安官助士の身分をいい事にルーの身を危うくするやつらに際どい殺しを次々仕掛けるが、気が付くと些細な証拠だらけ。しかも、あまたの死の中心にオレ、もといルーがいるじゃないか。
 素っとぼけてれば済む話なのか、どんな決定的証拠だかがあるのか強面地方検事にエルマーの金持ち親父、遂には「オレ」の事以外ルーのすべてを「知ってる」保安官まで何を隠してやがるか知れない。そんな中、身に染みてくるのはルーの味方はエイミーもジョニーも、死んじまってもう誰もいないという事。何を察しもせずルーの外堀を埋めてしまい残るのはもう奥つ城のオレだけ。
 そしてもうひとつ、保安官ボブはルーの何をどこまで知っていて自殺したのか?オレの憶測するルー、お袋とのナニや兄貴そのほかとの事まで何を検事に打ち明けて死んだ?こいつはどうやら、一つ潮時が来たらしい。

 察しのいい奴らならジョイスが生きていたとは思うだろうが、あの女がオレを許しているとは気づくまい。だから、最期をオレらの一蓮托生と盛り上げてやるわけだ。二人一緒に燃え尽きて、ついでに事の起こりとなったろうこの屋敷もろとも灰になってやる。
 ジョイスもオレの何者かを知れば驚くだろうが、当のオレもなぜルーの中に同居して今じゃどこに失せたか知れんルーの奴のふりをしているのか分からない。黙って死んでいった親父と保安官のボブ。きっとふたりともそれがオレらのためと思ったんだろう。そいつをルーなら死ぬほど知りたがったに違いないが今わの際にあっては昔話ももうどうでもいい事。
 連中の願いを蹴散らして炎の中、殺してもまだ愛は止まらない。ご検分の奴等、死ぬまでオレらの事を夢に見ろ。心残りはうまれて初めての哄笑を聞かせてやる余裕がもうない事だ。美しく燃え立つだけでは魘されるには不足じゃぁないか?
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