【中心はどこに?】
作られて半世紀たつ映画。
小心なサラリーマン・辻井喬(加藤剛)が、急な出張で東京から大阪に飛行機最終便で飛ぼうとしたものの、或る事情から土壇場でキャンセルしてしまう。たまたまその飛行機のチケットを欲しがっていた客がいたので、航空会社には届け出ずに現金と引き換えにチケットを渡す。ところがその飛行機が事故で墜落し、乗客名簿には辻井の名が載っていたので、妻(岩下志麻)は夫の死を信じかけるが、やがて、当日土壇場でチケットを譲ってもらい飛行機に乗った客の恋人(山口果林)が妻を訪ねてきて・・・
というふうな発端です。
しかし、この映画、どこに中心があるのか、はっきりしない。
最初は設定が奇抜なのでミステリーなのかと思うのですが、それにしては、山口果林は途中で出てこなくなるし、後半の展開がミステリーっぽくありません。
岩下志麻と市原悦子の、女同士の張り合いなのかとも思ったけど、その辺も迫力がイマイチなんですよね。
結局、残るのは平凡なサラリーマンである主人公の、小心で煮え切らない行動の情けなさだけ。加藤剛みたいなハンサムな俳優がこれをやるのは、あまりリアリティがないかな。いや、優等生的なイメージがある加藤だからむしろ適役かも。
あと、辻井喬という主人公の名。
これ、実業家(西武デパートの社長)であった堤清二が詩や小説を書いたときの筆名なんですよね。
この映画が作られたのが1970年。すでに堤清二は辻井喬の名義で詩や小説を出していました。
1970年といえば三島由紀夫が自決した年でもあるのですが、堤清二は三島と親交があった。
この映画の主人公が辻井喬という名前なのは偶然なのか、それとも堤清二を意識してのことだったのか?