りょうすけ

美しき仕事 4Kレストア版のりょうすけのレビュー・感想・評価

美しき仕事 4Kレストア版(1999年製作の映画)
4.0
「美しき仕事 4K レストア版」

横浜フランス映画祭2024にて鑑賞。クライテリオンのブルーレイで一度鑑賞しているが、日本語字幕版で初上映な事に加えて、監督の舞台挨拶ありとのことで往復6時間の距離を青春18きっぷを使って鑑賞してきた。

東アフリカに存在し、エチオピアとソマリアに接する国ジブチでフランスの外人部隊として従軍する兵士たちの物語。初見の時に、この部隊について疑問に思ったのだが、監督によるとこの部隊はフランス人以外の人間で構成され5〜15年の従軍によりフランス国籍を得られるという訳ありの部隊らしい。

とにかく映像が美しい。クレール・ドニ監督が撮影監督のアニエス・ゴダールの「地球の始まり、または終わりの様な景色」という発言を引用していたが、その言葉が不思議と合ってしまう様な圧倒的な景色。それが35mmの温かみとシャープさを兼ね備えた映像で堪能できるのだから、目にとってこれ以上の至福はないだろう。

初見の時も思ったけど、台詞が少ない分、キャラクターの感情が非常に繊細で、少しでも気が緩むと全く別の意味に捉えてしまうのではないかと思うほど。93分しかない割に死ぬほど神経を使う。主演のドゥニ・ラヴァンが感情的になっても表情を変えることがないのでより感情を読み取るのが難しいのだが、そこが凄くいい。やっぱりドゥニ・ラヴァンはかっこいい。

また、質疑応答の際に隣の方が質問していたのだが「男の肉体美」がすごく印象的な作品だった。軍人ならではの筋肉質な肉体や迸る汗、そして脈打つ血管など、エロティックなシーンは一切ないにも関わらず、官能的であり、男の肉体に対する賛歌。監督はこれまで描かれてきた女性の肉体美ではなく、男の肉体の美しさを描きたかったらしいが、男の自分でも惚れ惚れしてしまう肉体と生きることの美しさ。

さらにシャンタル・アケルマンの「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」やジェーン・カンピオンの「ピアノレッスン」など女性監督の映画が時代を経て更に評価されていることに対しての質問があったが、これに対して「元来男の文化だった映画が、時代の流れと共に女性も参加する様になった。その中で多くのいい作品が出てきたが、最近になって急に女性監督が増えたわけではないと自分では思っている」というアンサーも非常に印象的だった。質問が質問なので、ちょっと不安な質問ではあったが、偉大な女性監督であるクレール・ドニ監督自身からこの質問への答えを頂けたのは非常に貴重なことだっただろう。



最後に本作のラストのダンスシーンについて。ここからはネタバレあり。


ドゥニ・ラヴァン演じる主人公は軍での不祥事から外人部隊を退き、フランスへ帰国することが決定する。その前夜のダンスシーンがあの激しいダンスであり、様々な意味を込めていることを監督自身の口から聞けたのは非常に貴重だった。初見の時もこのダンスシーンに圧倒されたが、何の意味合いがあるのかが分からなかった。まさか外人部隊を退く事になった主人公の死のダンス的な意味合いがあるとは思ってもみなかった。このシーンが劇場のスクリーンで観れただけでも得なのに解説までしてもらえるとは。質問してくれた人に感謝。

2回観ても全てを吸収しきれないので、5/31の公開時にもう一度鑑賞しようと思う。ほんと何度観ても新たな発見がありそうだし、その度に好きになりそう。噛めば噛むほど味が出る映画である。
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