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フォロウィング 25周年/HDレストア版のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.8
 孤独で、どことなく寂しくて退屈していた。毎日が暇だったという若い男の独白。それをじっと見つめる刑事の視線。小説家志望の若い男ビル(ジェレミー・セオボルド)は、日々の孤独に耐え切れず、好奇心で街で見かけた人間の尾行を始める。スタジアムで客に目をやった時、たまたま目についた人間がターゲットになる。ある日、街で見かけた1人の男にターゲットを絞ったビルは、男の後を追いファミレスに入るが、逆に尾行していた相手の男コッブ(アレックス・ハウ)に話しかけられる。男の口をつく真っ赤な嘘、それをコッブは冷ややかな目で見つめながら、無言になるまで追い詰める。コップに残った僅かな香りを嗅ぎ付ける男はビルを警察に突きつけるかに見えたが、逆に自分が同じく趣味でしている窃盗にビルを誘う。昼間、アパートのベルを鳴らし、反応のなかった部屋に誰彼問わず物色するコッブは、その部屋の人間がどういう人間なのか想像することに喜びを見出しているという。ビルはコッブに言われるがまま、尾行を超えた窃盗に手を染めるが、まだ事態の深刻さに気付いていない。

 クリストファー・ノーランの長編処女作は、フラッシュ・バックやフラッシュ・フォワードなどの映画的手法を使った時系列シャッフルが印象的な作品である。映画はビルの独白で幕を開けながら、それに加えてコッブ、金髪の女性(ルーシー・ラッセル)双方の主張を複雑に散りばめる。この三者三様の横のつながりと時間軸という縦方向のつながりとが複雑に絡み合う。その様子は後のノーランの3D的な時系列と物語の展開とも無縁ではない。孤独で夢遊病的な世界を生きるビルの真実の告白は、いとも簡単に第三者に搾取される。つまりそこで現実と虚構とが曖昧になり、詐欺師の導き出したあっと驚く展開が真実の上にもう一つの真実を書き加える。モノクロームに叩きつけられた極端なロウキーの陰影と白昼夢のようなアパートの廊下、A4サイズの封筒に入れられた証拠写真、本棚のある部屋といった後のクリストファー・ノーランの刻印が垣間見える。男を搦め捕ったファム・ファタールな女の陰影、あっと驚くような展開は当時無名ながら堂々たるデビュー作である。
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