砂米

幕末太陽傳の砂米のネタバレレビュー・内容・結末

幕末太陽傳(1957年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

カラフルな映画ポスターにつられて観たのでモノクロでびっくりした。
昭和製作の時代劇?映画を自ら観ようと思ったのは初めてだったので当たり前に白黒ってことも分からなかった。
でも観始めたら慣れないモノクロが気にならないくらい面白かったし、カラーはカラー、モノクロはモノクロの美しさがある。
この映画のおかげで日本の昔の映画って面白かったんだって知ったし、この後黒澤明の作品も観ることができた。感謝です。

居残り佐平次など落語の前知識がなかったので最初は誰が主人公なのか全く分からなかった。
ポスターにいる人は出てきて宴会してるけど、どう見ても主人公には見えないしな……。こっちの顔がパリッとしてる(高杉晋作(!?)役の石原裕次郎さん)青年が主人公なのだろうか…と考えているうちに話がどんどん展開していく。

この映画の良いところはテンポの良さ。
一銭もないことが分かってから、この男が主人公と分かる。それから彼が本領を発揮し出して魅力にどんどん引き込まれていく。
何も考えてなさそうなお気楽な男がこんなに賢くて心のうちが読めない人だったなんて面白い。面白すぎる。
佐平次を演じるフランキー堺さんのリズム感、バランス感覚が絶妙。
物語といのさん(佐平次)の軽快なリズムが見事に合っている。
このフランキー堺という男、何者?!と感動で興奮して調べると元ジャズドラマー、コメディアンとな。
元ジャズドラマー?!だからリズム感が良いのですかね…いやはや…。観た後も驚かせてくれる。

登場人物が増えるごとに物語が交錯していくけど、いのさんがサクサク解決していく爽快さ。

時代劇の義理・人情は好きだけど度が過ぎたものは理解し難いので、いのさんのお節介でもなく温かい心で動いてるわけでもないスタンスがサラッとしていて見やすい。

いのさんに「あんたが主人公なんですよ!」って教えてもヘラヘラ笑って、気にせず飄飄と去っていく姿を想像して良い男だな〜と浸っている。
いのさんもフランキー堺も今の令和の世にも欲しいな〜!とすごく思う。
現実の周りにも居てほしいし、フランキー堺さんは役者界にほしい。生きてる間にお目見えしたかった。

ただラストが不可解だった。
ここまでこんなに軽快で明るかったのに、最後が暗すぎる。落語の元ネタのストーリーなのかもしれないけど勿体ないと思ってたら別案あったんですね。それも監督の本命案。
最後いのさんが走り逃げて、現代まで走り抜けていっちゃうという。
メタ?っていうのかな。確かに当時だとより反対する人がいたと思うけど見たかったな。
いのさんって所作とか含め物語の時代に生きる人にしか見えないけど、現代にも普通に暮らしてそうなんですよ。そんな不思議な人だから監督の案は名案だと思った。
後にその案は『田園に死す』に取り入れられたらしい。あの新宿の交差点で将棋?してるシーン。あれも格好良い。
フランキー堺も監督の案に反対したらしくイメージ的に意外だったけど、その後やっぱり監督案は正しかったと思ったらしい。
川島監督とフランキー堺の『写楽』観たかった…。川島監督死後、フランキー堺が写楽について研究し写楽の映画を作るという、映画以外の背景でも人情というものを感じました。

ほとんど小さな遊郭内で繰り広げれるストーリー。こんな小さな世界でこんな面白い話が繰り広げられていたなんて凄い。
この映画でひとつの建物で話が始まり終わる系の物語が好きなんだと確信した。

とても良い映画でした。川島監督、フランキー堺ありがとう!

・佐平次がいつの間にか「いのさん!」とみんなに呼ばれている。確認したけど「いのさんと呼んで」みたいな発言も無し。

・煙管を使うシーンもとかもだけど、女中さんと話すシーンで下駄で舟を歩くのが上手くて本当にびっくりした。簡単に歩いてるけど絶対難しい。

・人がいなくなるとスッと無表情になるのが好き…。

・佐平次以外の登場人物も素晴らしい。遊郭の奥さんも良いキャラだった。念仏?を唱えてる。いつも数珠ではないけどお守り?みたいなのを首から下げている。
砂米

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