今話題の『侍タイムスリッパー』で印象的なキャラを好演されている、冨家ノリマサさん主演の55分の短編。
主人公はタクシー運転手で、どうやら彼が不思議な体験をするらしい。
多くの映画祭でも評価されている、という前情報のみで観に行った。
劇場で予告編は一度観たくらいだった。
まず、本作については僕は大きなミスリードをしていた。
タクシー運転手といえば都会、というイメージがあって、大都会の片隅で起こった物語なんだろうな、という先入観があったのだ。
例えて言えば手塚治虫の『ミッドナイト』みたいな。
全然違った・・・(苦笑)
どうなんだろ、この映画って、題材があれ(敢えて書かないけど)だと判って観に行ってる人がほとんどなのかな。
僕はTVドラマにしろ映画にしろ、あの題材を持ち込むことに大いに抵抗を持っている。
前にも何かで書いたと思うのだが、あれ自体、未曾有の出来事であり、それは決して忘れてはいけないことだと思う。
以降、扱った作品は様々な媒体にあるけれど、主体として描くならばともかく、キャラへの肉付けの要素として、あの出来事を用いるのは、その作品の本来の主旨から外れているように思えて、単に題材として扱っているように見える。
言い切ってしまうが、クリエイターに芸が無いと感じてしまうのだ。
なので、本作を観た時、あ、東京が舞台じゃないんだ。
しかもタクシーは宮城ナンバーで、そこで悟ったのである。
上記の前提があるので、冒頭から本作へのそれまであった「何を観せてくれるんだろうか」というワクワク感は一気に失せてしまった。
が、物語が進むうちにこの映画が、強く厚い信念と愛情と鎮魂が込められていることに気づき、一度落胆した気分は、一気に物語にのめり込むようになったのだ。
鑑賞後、本作のパンフに目を通し、監督がどういう思いでこの映画を作ったのかが、鑑賞後の感動とともに強く伝わってきた。
本作は、最初に僕が「芸が無い」と言い切った作品群とは全く違う、真摯にあの出来事に向かい合った作品だったのだ。
55分という決して長くない上映時間だが、そこに込められた思いは強く熱かった。