鮭茶漬さん

ブルーピリオドの鮭茶漬さんのレビュー・感想・評価

ブルーピリオド(2024年製作の映画)
4.0
自分も日芸出身なので藝大は憧れであり目指していたところはあるんですよ。だから、そんな絵画素人の高二が目指して、たとえ本気で挑んだとしても、そう簡単に藝大が受かるもんか、舐めるな!という思いで見てはいたのですが、この映画は合否の結果よりも過程の情熱に重きがあることが吉と出ています。

美術室で先輩の絵に魅せられて、絵画に目覚める主人公を眞栄田郷敦が熱演。アートに無頓着な青年が、どんどんクリエイティビティな本質を掴む過程が、理屈でないエモーショナルな衝動と共に描かれ、その様が瑞々しさと清々しさが相まって大きな感動を呼ぶ。同時に、絵に没頭すると比例して生命力に満ちていく様も興奮を呼び起こす、あ~かつての自分もそうだったなと懐かしむ自分もいる。シニシズムが美徳になりがちな冷めた時代において、こういった熱量の高い作品が人気を博していることも嬉しい。

漫画と異なり、相応の絵画を示さなければならないのは難しいと思うが、本当に美大生が描いたのだろうか、多くの絵画が用意されているのに感銘を受ける、相当に苦労したことだろう。

文化部の青春って地味になりがちだけど、実に躍動的でスポ根映画にも引けを取っていなかった、情熱で押し切った本作の勝ち!
印象的だったのは、薬師丸ひろ子演じる美術部教師の言葉だ。「世間的な価値では無く、君にとって価値があるものが知りたい」という名言のシーンに出てくる。「それは矢口さんの感想ですか? それとも世間の誰かの感想ですか?」原作にはない。本作は、ここを鋭くえぐる。スポーツバーではしゃぐ主人公が葛藤するシーンまで、その言葉は後を引く。まるで、誰かの言葉を借りて無思考なネットの書き込みのような意見とか、W杯の時だけサッカーを応援する浅はかさを皮肉ったように。この映画の本質は情熱にある、個性にある。大衆の意見に去勢された物を善としない覚悟を感じた。大衆映画なのにね。なかなか見応えがあるなと感じた。

役者の瑞々しさも素晴らしかった。生命力に満ちた映画。
兄の新田真剣佑がエキストラで参加していたのには気付かなかった、見つけようと意識していたのに……
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