古典的ホラーの名作として知られる本作。
スティーヴン・キングの同名小説『シャイニング』が原作。
それを『博士の異常な愛情』や『時計じかけのオレンジ』などで知られる名匠スタンリー・キューブリックが映像化。
主演には『カッコーの巣の上で』でオスカーを獲得したジャック・ニコルソン。
原作から大幅に改変され、原作の内容とあまりにも違うことからスティーヴン・キングが激怒し、彼の思い描く『シャイニング』を別の監督を雇い脚本は自ら手掛けたドラマを制作したなんて逸話もある作品でもある。
また2019年にはユアン・マクレガーが主演を務めたシャイニングの正式続編『ドクタースリープ』が公開されるなど今でも人気は衰えていない。
本作も相変わらずキューブリックらしさが炸裂している。
まず注目するべき点は独特のカメラワークだ。
『シャイニング』は世界で初めてステディカムを使用した作品。
ステディカムとはカメラマンがカメラを持って歩いたり、あるいは車載した際に、その移動によって生じるブレや振動を抑え、スムーズな映像を録ることを目的に開発されたカメラ安定支持機材のことである。
カメラマンが手持ちカメラのまま走ったりしても容易に滑らかでスムーズな移動映像が撮影できるようになった。(Wikipedia)
ステディカムを使用したカメラワークは冒頭の車のシーンや、ダニーが実父ジャックに追いかけ回されるシーンなどで確認することができる。
そしてもうひとつ、完璧な画。
キューブリックは元々、一点透視図法を用いた画が多く見られていたが本作でも数多くのシーンでこの図法が使われている。
一点透視図法といえばレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』などイタリアルネサンス時代の絵画が有名。
遠近法を巧みに使用し、上手い具合に消失点を持ってくるこの構成力の高さ。
一般人がただ適当に撮った映像とキューブリックの緻密に計算された上で何度も何度も撮り直した映像とでは美しさが全く異なることが分かる。
他にも完璧な左右対称や鮮やかな色彩演出など、芸術性と娯楽性のふたつを合わせ持っていることが分かる。
本作はキューブリックの映像美が堪能できるアート映画でもあるということだ。
また、脚本も素晴らしい。
しかし本作は原作者からお怒りを受けているのもありあまり褒められたものじゃなかったり。。
良くも悪くも素晴らしいと言っておこう。
ストーリーを曖昧にし最後まで答えを出さず、簡単に結論づけられないように作品にストーリーとは関係ない複数の意味を持たせることが多いキューブリック作品。
本作もこれまでにたくさんの考察がされるなど、さすがキューブリックという感じだ。
「インディアンに魂を囚われている」や「ホテルの時間は進んでいない」とか「夢オチ」なんて考察などなど。
考えれば考えるほど難しくて、そして楽しい。
これがスタンリー・キューブリック監督作品の魅力のひとつだと思う。
『シャイニング』には明確な答えなどが用意されておらず、余白の多い作品となっている。
観る人に無限の解釈を付与し、観たあともたくさん楽しめるという点から、映画としての作りが完璧だと言える。
そして完璧に設計された画にはキューブリック監督の映像に対する意識の高さ、完璧を追求し続ける心がよく伝わってくる。
メイン3人の俳優らの怪演や、全てを語らない脚本、当時最新の撮影方法など、どこを切り取っても素晴らしい作品だ。
これからも語り継がれるであろうモダン・ホラーの傑作。