ベルベー

ANORA アノーラのベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

ANORA アノーラ(2024年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

祝アカデミー賞。喜劇と悲劇は裏表を味わえる140分。爆笑ドタバタコメディからあのラストに持っていって違和感がないのは匠の技。

ショーン・ベイカーの作品は毎回気になっておきながら観ることがなく、今回が初めて。作風は知ってたけどのっけから際どいどころかモロなシーンの連打で圧倒されちゃった。なんだかんだニューヨークでもこういうクラブは全然あるんだな…。

そんないかがわしいクラブで野郎共から大人気の主人公アニー。遊びに来た御曹司に見初められてあれよあれよというまに結婚!これで私も勝ち組人生チョロかった〜〜〜!…なんて、なるはずもなく。「プリティ・ウーマン」良い映画だけど男性の欺瞞まみれで「マイ・フェア・レディ」からの翻案の仕方も正直キモいよな…と、今だから抱いちゃう違和感のその先をコミカルにトラジックに描く。

絶対うまくいかないのが俯瞰者たる我々観客からしてみれば明白なわけですが、これで人生バラ色!人生チョロかっなアニーのパリピパートがまあ長い笑。正直前半は楽しいロマンポルノ。

結構な時間を費やした後、ようやく「そんなに人生うまくいかねえよ!」パートに突入するわけですが、ここで深刻なトーンになることなくテンションは陽のまま、むしろ更にハイテンションになっていくのが個性的なところ。

ドタバタ→超ドタバタの転換点になるのが、みんな大好き3バカの登場。とにかく何やっても上手くいかない3匹のオッサンvs突然のトラブルにブチ切れアノーラ。血圧の高い罵り合いの応酬で、当人達は必死だけど笑ってしまう。

結果として、御曹司が救いようのないアホ&それを育てたクズ両親のせいで皆が傷つく。暴れまくってた4人のアドレナリンが切れていくことを表すかのように、映画のテンションも徐々にしっとりとしていくのがポイント。金持ち一家の恫喝にはうっすらと不穏さが漂うのだけど、あくまで「うっすら」で、金持ちの気まぐれに弄ばれるアニーの悲しみに焦点があてられていた。

面白いのがラストシーン。出会いが最悪の形だったのでいがみあっていたイゴールに慰められ、行為に及ぶがやがて怒りと涙が溢れて止まらなくなり…アノーラの怒りは、結局性行為に溺れるイゴール引いては男に対してか、あるいは自分自身にか。その余韻を象徴するように、無音のエンドクレジット。ずっとやかましくクラブミュージックが鳴り響いていた映画なのに。

アカデミー主演女優賞を獲得したマイキー・マディソン。血管ブチ切れそうな見事な演技で、他作品観たことあったっけと思ったら「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で壮絶な死を遂げるマンソンファミリーの彼女か!というかマンソンファミリー、当時はダコタ・ファニング以外知らない人だったのに、今や皆出世してて凄い。オースティン・バトラーにマーガレット・クアリーにシドニー・スウィーニーにマヤ・ホーク。タランティーノの慧眼。

でも個人的に更に刺さったのは、ロシアのバカ息子を演じたマーク・エイデルシュタイン。見事に頭空っぽに振り切った演技に乾杯。そしてイゴール役のユーリー・ボリソフ。「コンパートメント No.6」も素晴らしかったけど、粗暴さと優しさを兼ね備えた不器用な男が似合う似合う。ちょっとユアン・マクレガーに似てると思ってます。

似てると言えば、3バカのリーダーを演じたカレン・カラグリアン、途中からMr.ビーンに見えた笑。ウザいんだけど笑える空振り具合がこれまたお見事。
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