爽快さとは無縁の物語と同調するように、スクリーン・サイズと、バストショットやクローズアップといったショットの連鎖から見る限り、この映画を見ることはたいへん息苦しい。走る人物をとらえた横移動撮影にさえ、その画面には大気の流れみたいものがない。
しかし、唐田えりかが画面にあらわれてから、唐突に開放性が画面にいきわたるのだ。それは彼女の存在感にもまして、ロングショットの挿入と、聴くという主題を探り当てられる瞬間だったからだろう。それは、この映画の音響的な配慮さえも見る人に納得させるシークェンスであった。