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センチメンタル・アドベンチャーのFancyDressのレビュー・感想・評価

5.0
原題は「Honkytonk Man」

ホンキートンクとは、西部開拓時代にさかのぼる言葉。馬車で運ぶとき、激しい揺れで音程を狂わせてしまったピアノが立てる調べの面白みをそのままに活かした演奏スタイルを語源とする。調子っぱずれ、はぐれ者、安酒場、売春宿 などの意味もある。

さて、この82年製作のイーストウッドの監督9作目の作品に対して、結論から述べるとする。

大傑作である!

71年の「恐怖のメロディ」から、イーストウッドは監督業に進出したわけだが、この「ホンキートンクマン」(「センチメンタルアドベンチャー」というセンスのない日本語タイトルが私はどうしても嫌なので、本作に限って、原題で呼ばせてもらう。)にいたるまで、全作それなりに傑作ばかりではあった。「恐怖のメロディ」も「荒野のストレンジャー」も「愛のそよ風」も、あの「アイガーサンクション」や「ガントレット」だって、凄い作品だと素直に思う。しかしだ、本作「ホンキートンクマン」は、そのどれをも、ひょいと越えてしまっていると私は思うのだ。

本作は、イーストウッドと実の息子、カイル・イーストウッドが叔父と甥っ子という役柄で挑んだロードムービーであり、広い意味では、その後のイーストウッド作品にも見てとることができる、所謂、伝承の映画だ。

このイーストウッド演じる叔父は、実の息子カイル演じる甥っ子を、売春宿に連れていき女を覚えさせ、無免許で車を運転させ、ウイスキーを飲ませ、ギターを覚えさせ、バー(ライブバー)に連れていき音楽の楽しみを教え、間接的にではあるが、受動喫煙により、マリファナの匂いまで覚えさせる。
あげく、叔父が留置されていた留置場の柵をぶっ壊させて、脱獄の手伝いまでさせる。(叔父を大好きな甥っ子の自発的な行動ではあるが。)

この甥っ子が大好きな叔父は、調子ぱずれな与太者である。

しかし、音楽の才能だけはあるのがこの叔父である。そんな、叔父に、甥っ子は尊敬の眼差しを向けている。

そして、ラスト。ラストはここでは言うまい。

もうたまりません。泣けて泣けて。

さて、本作では、イーストウッドはピアノを弾きギターを弾き、そして歌う。ファンとしては、それだけで、もう最高。

エンドロールの曲もイーストウッドが歌う。「グラン・トリノ」でもイーストウッドの歌声がエンドロールで流れたが、本作は、「グラン・トリノ」の原型といっても過言ではないだろう。

P.s.本作で甥っ子を演じた、カイル・イーストウッドは、今はプロのジャズミュージシャンになった。
この映画と現実の交差の妙、、、イーストウッドの伝承に涙。
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