ナガエ

あの人が消えたのナガエのレビュー・感想・評価

あの人が消えた(2024年製作の映画)
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さて、そんなに観ようと思って観たわけではないのだけど、テレビ観てると、死ぬほど番宣してるんで、まあ観とくかと思って観てみた。

全体的な感想としては、「脚本がよく出来てますね」という感じ。ただ、これが難しいのだが、「脚本がよく出来てる」のと「面白い」のとはちょっと違う。そして本作は、決してつまらないわけではないのだけど、「面白い」という感じにはなりにくい気がした。いや、「要素」としては面白い要素は色々あるのだが、「脚本」自体がその「面白い要素」になれているかというと、ちょっと微妙な気がする。脚本は「よく出来てる」が「面白い」かというとちょっとなんとも言えないなぁ。

というのも、物語がちょっとアクロバティックすぎる(まあ、それも捉え方次第ではあるが)ので、「フィクション」としか捉えられないからだ。

「フィクション」でもやはり、「この登場人物には共感できる」「この設定は凄く身近だなぁ」みたいな要素を加えることで「自分ごと」に感じさせれば「面白い」に近づいていく気がするのだけど、本作は、「物語を成立させるための制約条件」が多いので、「自分ごと」みたいな要素を加える余地がない。

例えば、少し前に観てビックリした映画『リバー、流れないでよ』は、「2分間が繰り返される」という、ちょっと観たことのないトリッキーな「制約条件」があったのだが、この作品の場合、その「制約条件」はある意味で「外枠」でしかないので、物語そのものにはさほど影響しない(まったくしないわけではないが)。なので、非常にトリッキーな設定の作品だったけれども、「物語」は「自分ごと」に感じられる要素があったし、だから「良い作品だなぁ」と思えたのだと思う。

しかし本作の場合は、その「制約条件」が「内容そのもの」に絡んでくるので、「そういう物語を展開させるなら、物語のこの部分はマストで固定されないといけない」みたいなものが多い。そういう中で工夫して面白くしているとは思うのだけど、やはりそれでも、「自分ごと」に感じられる要素は決して多くはなく、だから脚本に対しては、「よく出来てる」と思うけど、なかなか「面白い」というところまでいかなかったように思う。

あと、これも「内容そのものに制約条件が存在する」が故の難しさだと思うのだけど、1点、物語としてクリア出来ていないポイントがあると思う。ネタバレにならないように書くのでよく分からないかもしれないが、「小宮がかたる話には無理がある」と思う。というのは、「『丸子が何を知っているか』を知らなければかたれない話」だからだ。この点は恐らく、脚本を担当した監督もきっと理解していたとは思うが、たぶんどうやっても解消できないと思うので「えいやっ!」という感じで目を瞑ることにしたのだろう。エンタメ作品なのでそういう部分をとやかく言うものではないと思うのだけど、こういう「二転三転四転五転」みたいな物語の場合は、「辻褄は合ってるのか?」みたいな部分がどうしても気になってしまう。

さて、というわけで、ネタバレをしないように内容の紹介をしてみよう。

丸子夢久郎は、4年前のコロナ禍でバイトを切られ、学費を滞納するほど生活に困っていた。そんな折、テレビで「コロナ禍でネットショッピングが増え、宅配の需要が増えている」というニュースを見て、「誰かに必要とされたい」という気持ちもあって、八谷運輸で配送ドライバーとして働くことになった。しかし丸子は、仕事が遅いと怒られることが多く、所長からは「次はないからね」と言われている。

配送担当地域はドライバー毎に決まっており、丸子は2週間前から「クレマチス多摩」というマンションを担当することになった。普段から同じ場所に配送していると、住人のことにも詳しくなっていく。ゴミの分別をしない人や、配送の担当になってから一度も自宅にいたことがない人など、色んな人がいるものだ。

さて、八谷運輸で仲良くしている先輩の荒川は、「小説家になろう」というサイトで小説を書いており、以前から「読んでコメントを書いてくれ」と言われていた。仕方なく「ゾンビに転生する」という物語を読み始めるのだが、これがどうにもつまらなかった。しかし、荒川の小説を読んでいる時にたまたま見つけた「スパイ転生」という小説が、もの凄く面白かった。コミヤチヒロという名前で定期的に小説を発表する彼女の作品に、丸子は虜になり、いつしか彼女の小説を読むのが生きがいのようになっていった。

そしてなんと、クレマチス多摩の205号室に「小宮千尋」という住人がいるのである。配達の際、チラッと部屋の奥が視界に入り、そこには「小説家になろう」のページを開いたパソコンが置かれていた。やっぱり、間違いない。コミヤチヒロは、彼女だ。

しかし、クレマチス多摩へと配達を続ける中で、どうにも不穏なことが続いた。そして丸子にはそれが、「205号室の小宮千尋がストーカー被害に遭っている」ようにしか感じられなかったのだ。警察に通報するか? しかし、荒川から「もし違ってたら、所長が黙ってないぞ」と脅される。もっと確実な証拠を手に入れなければ。そう考え、丸子は「配達員」の領域を超え、「小宮千尋がストーカー被害に遭っている証拠」を掴もうとするのだが……。

本作は割と、高橋文哉の良い感じの演技で成立している部分はあるなと思います。高橋文哉演じる丸子は「ちょっとトロいし、弱いっぽいんだけど、『憧れの小説家を守る』ために奮起する」というキャラクターで、「そういうキャラクターじゃないと成立しないシーン」は結構あったように思う。とにかく、「どう考えても一番怪しいのは丸子」なんだけど、その違和感を可能な限り最小限にする役割を高橋文哉がちゃんと担えている感じがあって、そこは良かったなと思う。

あとは北香那と染谷将太の「何を考えているんだかよく分からない表情」も、本作を成立させるためには必要な要素だったなと思う。作品の設定に合ったエンドロールも凝ってて良い。

あと、作品とは全然関係ない話なのだけど、「マジか」と思った話を1つ。「北香那」のことを僕はずっと「きたかや」だと思ってたんだけど、それだとGoogle日本語入力では出ず、「?」と思ってたら、「きたかな」なんですね、この人。で、それはいいんですけど、Filmarksの「あらすじ」には「北香耶」と、そして「出演者」には「北香那」となってて混乱しました。っていうか、公式HPの「STORY」も「北香耶」ってなってるんで、公式がそもそも間違ってるんだろうな、と思うんだけど。まあ、そんなどうでもいい話を最後に書いて終わります。
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