じゃあ俺が2番目

車が木を通ると消えるのがよかった。真似してみたいと思った。

イギリスの前衛作家ジョン・スミスの短編ホラー。前衛作品らしいので身構えたが、意外とまっとうにホラーしてた。

ジョン・スミス自身のナレーターによる主人公の男が買い物の帰り、ふと街中の建物の間に忽然と建つ、黒い塔の存在に気付く。見慣れた景色のはずなのに、今まで気づかなかった事に驚いたが、その時はさして気にも留めなかった。
それからしばらくして、車の故障で降りた時に、アパートの間に黒い塔を見つけた。最初にその塔を見つけた地点から1マイルも離れているのに。不思議に思って近隣の人に尋ねるとそんな塔は見た事もないと言う。
遠方の刑務所に入っている友人に面会に来た帰り、刑務所内に黒い塔を見つける。帰りのバスが停車した前の工場にも、その黒い塔が…

こうした展開をほとんど静止画のように動かない定点カメラで撮られた風景と、モンテイロの「白雪姫」（2000）のようなブラックアウトで表現している。車の騒音など、環境音は入っているが、木々がざわめく他は動きのあるものを全く見せない。次第に赤、オレンジ、青、黄色といった単色に合わせて男が皿を洗う様子や、飲み物を注ぐ音を加えて、色のみのショットで展開する。洗われたばかりの皿を持つ男の指、暖炉の炎、ベッドから起き上がった男の体がズームアップで映される必要最小限の例外を除けば、色と音のみで構成され、観ている側の想像力に仮託している。

大量のカットの早回しとズームイン・ズームアウトの連続で、塔に追われる男が狂気に陥っていく様子を主観的に表現しているのが秀逸。青空にぽっかりと空いた黒の歪さは不安と恐怖を否応無しに掻き立てられる。

真っ暗な部屋で、字幕も無しで見るのが本来あるべき視聴方法かもしれない。

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俺しか観てない
足音と切り返しのリズム、単色の画