塩湖さんの映画レビュー・感想・評価

塩湖

塩湖

墓泥棒と失われた女神(2023年製作の映画)

4.0

異様にわちゃわちゃしてて見ててあかるい呪いをかけられ続けるようなコメディ劇でありつつ、でも、過去なのか未来なのか、あるいはもっと大きく時間そのものと言ってしまってよいのか、とにかくそれみたいな光にみち>>続きを読む

ルックバック(2024年製作の映画)

4.5

人間や人間の生活は端からみたら腹が立つ、生きているさまもそうでないさまも腹が立つ、といういやな事実をおそらくあえて誇張してわかりやすく描いてるのが感動的。あと、藤野がぬかるんだあぜ道を辿っていくときの>>続きを読む

審判(1999年製作の映画)

3.5

パク・チャヌクの短編。タイトルの出しかたが不気味でいい。序盤中盤のストーリーといい、首なし遺体といっしょに大量の缶ビール入れてる描写といい、真っ当な不謹慎コメディか…と思いきや、終盤は、霊安室という空>>続きを読む

WALK UP(2022年製作の映画)

4.0

一人暮らしが性にあってる発言以降の会話とか表情がぜんぶ異常なほど生々しく感じられておかしかった。ドアの開け閉めという映画の風通しをよくするための大切なイベントが、ロックとその解除にともなう不快なピーピ>>続きを読む

ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ(2023年製作の映画)

4.0

冬の温もり系映画の名作。いやな教師といやな生徒の関係性がちょっとした悪友の期間を経てかけがえのない他人同士になる。病気とか身内の不幸の話になると都度ちゃんと気まずい一瞬が生まれるのが、人を描く作品の時>>続きを読む

HOW TO BLOW UP(2022年製作の映画)

4.0

とくに「ひとつの目的のために集まって離散する」の「離散する」に凄い力のこもっている作品。この手のストーリーで誰が誰だか分からなくなることがなかったのは貴重な体験だった。また、下手な虚飾を省いているので>>続きを読む

違国日記(2023年製作の映画)

4.0

原作(未読)はもっとおもしろいんだろうな、という感じが終始うっすら漂ってはいたものの、瀬田なつき印のアクションと夢の演出にはノンストレスで魅せられた。葬式で槇生が朝を誘うときのヤバい空気感は、こいつな>>続きを読む

極道恐怖大劇場 牛頭(2003年製作の映画)

4.0

弛緩しまくったヤクザのロードムービーに『ビジターQ』の出がらしみたいな母乳要素がまじる。大便中の絶叫マスターと鼻をつまむ主人公たちの切り返しで、急に「いま画面には俺たちしか映ってないから関係ないんだよ>>続きを読む

リンダとイリナ(2023年製作の映画)

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偶然性からは程遠いしっかりした構図に封じこめられた「ひとなつ」の、その唯一でたしかな偶然性、みたいなのがあるかもだけど、ギヨーム・ブラックのドキュメンタリーはやっぱりよく分からない。見えない。外したマ>>続きを読む

蛇の道(2024年製作の映画)

4.0

無表情と対峙する表情たちの映画。主役の柴咲コウ、フランスの面々、西島秀俊にばかり注目していたら、ラストシーンのあのひとに全てもっていかれた!

エドワード・サイード OUT OF PLACE 4K(2005年製作の映画)

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パレスチナの土地と人の記憶に向き合う佐藤真の手記のような文章が、別のナレーターに読まれることで声のすり替えがなされてる辺りに、映画づくりという作業の複雑な側面がある気がする。そしてそのように多少の操作>>続きを読む

ドライブアウェイ・ドールズ(2023年製作の映画)

4.0

面白かった。レズビアン・ムービーと平行して『ファーゴ』とか『ノーカントリー』をちょびちょび焼き増ししてるのがアホ臭くていい。てか、それらの映画の元ネタといえる生粋の筋をまじめにやった側面もある? 展開>>続きを読む

花子 4K(2001年製作の映画)

4.0

バスケのシュートきまって周りと一緒に拍手する花子が、カット変わって帰り道に一人で拍手し続けてるの観てびっくり。そんな演出する作家が、カメラを覗き込んで「あれ?」とか呟きながら食べ物アートをぎこちなく撮>>続きを読む

チャレンジャーズ(2023年製作の映画)

4.5

ずっっと面白かった。他人事としては果てしなく軽薄なものになりかねないラブゲームが「13年前」とか「8年前」とか存分に時間を駆け回り、そこにある形勢のやはり軽薄な変化がしかし都度ささっちゃう。テニスの試>>続きを読む

砂の女(1964年製作の映画)

4.0

ほんとうに疲れた。しかし、主人公の男に内在している抗わない(抗うことに抗う?)心理のグッと前に出てくる分量が常にその時々の最適解を叩き出すのは見てて気持ちいいかも。砂漠の風紋をまぼろしの水紋に変えたり>>続きを読む

美しき仕事 4Kレストア版(1999年製作の映画)

5.0

天才か。部隊の訓練のようすが生の証であり死の予兆であり何よりもミュージカルであり。それらは弛緩するぎりぎりで本当にドニ・ラヴァンに踊らせちゃうことで見事に閉じられる、いや絶対にわたしたちが見ることので>>続きを読む

マッドマックス:フュリオサ(2024年製作の映画)

3.0

緊張感の大半は「まわる車輪すれすれに顔がある」で成立してる。幼少期のくだりが間延びしてて離脱もよぎったけど、フュリオサの復讐スイッチが起動してからの「潜伏」パートはけっこうハマってよかった。声を封印し>>続きを読む

チャイム(2024年製作の映画)

4.0

主人公のスタンスが「何周もまわってふつうの人」と「何周もまわって異常な人」のあいだを物凄いスピードで行き交う。そもそも存在しない境目をむりやり作って再びこわす無意味さの徹底は短編だからより尖ってる。居>>続きを読む

ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー(2022年製作の映画)

4.0

お気に入りの映画たちが女性の性的客体化の事実を淡々と指摘されるそのさまをみている自分もずっと暴かれ続けてた。皮肉かもしれない『軽蔑』の場面だって視覚言語として見た場合やっぱり危ない、っていう批判はだい>>続きを読む

ありふれた教室(2023年製作の映画)

4.0

生徒たちが主人公だったらかなり格好ついて盛り上がるであろう展開の数々が教員の一人称視点で描かれて胸の詰まるスリラーになっちゃってるところがいい。見え方、見せ方ひとつで共感の方向性がこんなに簡単にシフト>>続きを読む

関心領域(2023年製作の映画)

3.5

ジェノサイド反対の精神が監督と作品にあることを心得ていたし、うごきのある演出多めだから、アート映画だけど見やすかった。画面がやはり研ぎ澄まされている。収容所側にまがっている有刺鉄線の湾曲、これがどうに>>続きを読む

クイーン・オブ・ダイヤモンド(1991年製作の映画)

4.0

監督が「人間」と思うものの博覧会みたいな。賭博、介護、結婚。個人視点の『コヤニスカッツィ』かと錯覚するほど画がいい。カジノディーラーの手という、最も人に見られるだろう手のひとつがとる仕草を執拗にとらえ>>続きを読む

マグダレーナ・ヴィラガ(1986年製作の映画)

5.0

映画でこんなことができるのかと驚かされた。陵辱、あるいは労働、やがて殺人。でもその順番はもはや意味をなさない。リフレインの中に堂々とある差異は、詩が言葉だけのものでないことを訴える。女を撮る。男を撮る>>続きを読む

パリでかくれんぼ(1995年製作の映画)

4.5

画の豊かさに圧されつつも内容がリヴェットにしてはやけに物語然としてて微妙かも、と思った矢先、身体の動かし方・捉え方を知り尽くしてる人の撮るミュージカルがおっぱじまり、なんか凄すぎた。歌がおわったあと互>>続きを読む

地に堕ちた愛 完全版(1984年製作の映画)

4.0

みんな何してんの。本来なら人間の生活のためにある館の部屋を舞台に仕立て上げてたり、演者たちの裏も表も一様にぐだぐだしてたり、文化祭の準備期間かと思った。演じてない状態を演じていることの緊張は『彼女たち>>続きを読む

彼女たちの舞台(1988年製作の映画)

4.5

舞台における演技の中断が何度か発生した先で、彼女たちの暮らしと会話が描かれつつ「中断することを中断している」みたいな奇妙な(しかしおそらく必然的な)時間の流れようが発生していて、なんかリヴェット観てる>>続きを読む

システム・クラッシャー/システム・クラッシャー 家に帰りたい(2019年製作の映画)

4.5

ベニーが遠くの山に「ママママママママママ」と叫んでる時の隣のミヒャの表情が辛い。他者へのまなざしがシステム(教育措置)の中で他者も自分も窮地に追いこんでくやりきれないさまを、役者が力強く、そしてきめ細>>続きを読む

悪は存在しない(2023年製作の映画)

4.0

おもしろい。言葉にすることでようやく浮かびはじめる「こわれた心」の姿と、いっぽうでここぞというときに強く示される謎の両方を楽しんだ。自然界におけるよそ者である自覚をかかげた巧が説明会の空気をそっと転ぷ>>続きを読む

リンダはチキンがたべたい!(2023年製作の映画)

4.5

モラルを欠落させ続け、やがて世界をリンダの「チキンがたべたい」という欲望通りのかたちにねじ曲げるクライマックスには、もう心のなかで頷くしかない。非暴力のストライキとの対比で、これぐらいしていいんだよ、>>続きを読む

異人たち(2023年製作の映画)

4.5

幽霊の口から「怖い」という台詞がこぼれるような映画によわい。大林版は両親の幽霊と会うたび主人公がわかりやすく顔をやつれさせてたが、本作のアンドリュー・スコットの場合「あちら側にひきずりこまれる過程」が>>続きを読む

ゴッドランド/GODLAND(2022年製作の映画)

4.5

死はすぐそこにあると嫌でも感じる映画。犬可愛い、では済まされない。大地の呼吸を隈なくひろう長回しで「ほう」と思わせときながら、馬の死骸が段階的に朽ちるさまをジャンプカットを駆使しつつしかし凝視するよう>>続きを読む

プリシラ(2023年製作の映画)

3.5

出会いから結婚、出産、離婚までを至極シンプルに描いてる辺りに、プリシラという人と、彼女の過ごした時間への敬意を感じる。急に終わってびっくりした。舞台の上で輝くエルヴィスは真正面からはほとんど映されない>>続きを読む

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)

4.5

主要人物が作家、という設定がここまで活きた映画が存在するのか。駆け落ち路線がストーリーの紋切り型であることを完璧なほど承知しているノラとアーサーの対話・視線の交流は、毎秒がきめ細かく、そのなかで「韓国>>続きを読む

フォロウィング 25周年/HDレストア版(1998年製作の映画)

3.0

難しい上にちゃんと退屈、という現在のノーランには絶妙にうみだすことのできない(ふつうに予算の違い)状況が続くので見応えはあり。本作に出てくる泥棒の名前が「コッブ」で『インセプション』で夢を盗む主人公の>>続きを読む

オッペンハイマー(2023年製作の映画)

4.0

オッペンハイマーがトリップ?する演出が痛ましくてすごかった。傑作『インセプション』もキリアンの脳内を描いてはいるが、あれは夢の世界の設計紹介みたいな側面もあるからリアリズムに傾く余地がいくらでもあった>>続きを読む

ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター(1993年製作の映画)

5.0

あの衝撃的なシーンとさいごの沈黙のくだりを拝むために観に行ったようなものだけど最初から胸を衝かれてしまった。エイダの娘フロラの描写が逐一天才的。心の動揺を隠せないサム・ニールによってふたりまとめて家に>>続きを読む