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ユーリー・ノルシュテイン 文学と戦争を語るのTWRのレビュー・感想・評価

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冒頭からウクライナをファシスト国家とレッテル貼りし、ゼレンスキーへの人格非難を捲し立てるユーリー・ノルシュテインに唖然。もしかして、このインタビューの中で意見の変節、あるいは混乱や葛藤のようなものでも見れるのかと思い我慢したが、半分強くらい見たところでも意見は全く変わらない様子。さすがに見るに耐えず、劇場を途中退席。彼の傑作群を見た後だったので、モヤモヤ、不快感、悲しみもひとしおだった。

ノルシュテインはウクライナ戦争について不可避の戦争とし、原因をウクライナの側に完全に他責化していたが、そりゃないだろうと。いかなる理由があれ先のロシアによる侵攻は国際法違反だし、発端として2014年のマイダン革命を挙げていたが、あれにしても経緯はあるにせよ最終的に起きたことはロシアによるウクライナへの国家主権侵犯であろう。一方で、同時にウクラナイを支援するアメリカやヨーロッパについて非難もしており、その点については理解できる。ウクライナ侵攻は非難しながらイスラエルのパレスチナでの虐殺はサポートする欧米のダブルスタンダードや、少し遡って米によるイラク戦争、NATOによるコソボ空爆も今回のウクライナ侵攻の相似形でしかないだろう。どちらも殺戮行為であるにも関わらず、一方は国際的な非難や制裁により孤立を強いられ、他方はほとんどお咎め無し。欧米中心主義の凄まじい矛盾というほかないだろう。

欧米に対する「どの口が言うのか」という非難なら大いに分かるのだが、しかし侵略側がウクライナへ責任転嫁するのはどう考えてもいただけない。あまつさえウクライナ人をして文化破壊者であるとか、真っ当な芸術に触れたことのない人々などと揶揄しており、こうなるともう単なる差別でしかないだろう。ウクライナを支援するアメリカは、両国の戦闘が続くことによって利益を得ることになるので、密かに戦争継続を望んでいるといったような主張もしていたが、こういう意見になるともう何だかよく分からず陰謀論じみてくる。少なくとも自分はそんな分析はニュースなどで聞いたことがない(むしろ終わりが見えない戦争に、どこまで支援金を注ぎ込むのかという米国内世論とその狭間で揺れる政府みたいな話なら聞いたことはあるが)。

ロシアの言論状況ゆえにこう言うしかなかったのかと考えてもみたが、名前は出さないまでもプーチンの核使用を辞さない発言には非難を寄せているし、何より本人の表情や口調の興奮具合からも弾圧を避けるための方便とは少し考えづらかった。また、「芸術」という言葉や具体的な芸術家名が本当に何度も登場して、芸術を称揚する発言を繰り返すのだが、そこにも危うさを感じた。芸術が権力にいかに利用されうるかということは、直近の歴史の中にだってその事例があり、知らないなんてことはないだろう。ウクライナ戦争についてあまり冷静な意見を持てていないように見える中で、この過度な芸術信仰にはかなりキツいものがあった。

しかしそもそもの話になるが、こんな映像を見ていると、このインタビュー自体が上映に耐えうるもので、あえて作品として発表すべきものだったのだろうか?という根本的な疑問が湧いてくる(書籍のほうは読んでないし、読むつもりもないのでそちらの方の内容は不明だが)。例えば「承服しかねる内容の話もあるが、今のロシアの言論状況のリアルな一面が芸術家を通して見えるのであえて提示する」みたいな意図があって、そういうステイトメントも同時に添えられた上での上映などならまだギリギリ分かるのだが、単にゴロッとこのインタビュー映像を出すことに何の意味があるのかさっぱりわからない。見ていてただただ残念になるだけの酷い映像だった。

※あとで調べたら才谷という監督はこんな人間だったのか…事前に知っていたら見ずに済んだのにな…。パンフレットにあたる書籍もこの監督の出版社からのもののよう。こんなものは上映する劇場が悪い👎 http://www.ei-en.net/freeuni/la_100125_yobikake.html
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