昨年の夏母を亡くした身としては、なかなか胸に堪える作品でした。監督の作品は「東京干潟」、「たまねこたまびと」と拝見してきましたが、今回はご自身のお父様の看取りという非常にパーソナルなテーマで、最後まで撮りきったことに畏敬の念すら覚えます。
心臓弁膜症を抱えながらも、献身的に自宅で末期ガンの夫をお世話するお母さん。自らも不整脈で病院に担ぎ込まれたりと、この老々介護はどこまで続くのか…といたたまれない気持ちになりました。
が、時々お父さんを玩具のように扱いながらもとことん世話をするお母さんの姿に、60年という年月を共にして、愛とかそんな感情をとっくに超越した家族としての絆の凄さを思い知らされました。お母さんが傍らで歌を歌い、息子と会話しながらふと気付けば息を引き取っていたお父さん。死は悲劇として扱われがちですが、苦楽を共にした家族に囲まれ、最後眠るように旅立ったお父さんは、ある意味今生で最高の旅支度が出来たのではないでしょうか。
途中途中で虫や花の映像が出てきましたが、命の火が消えんとしている一人の人物の描写と相まって、生きとし生けるものの輝きと愛おしさが強烈に感じられました。
