横浜流星演じる鏑木の存在感が際立つ。極めて困難な状況に突き落とされながらも人間を完全に憎みきれない根の部分の優しさ(脆さといったほうがいいかも)の表現力が良かった。横浜流星は同じく藤井道人監督の『ヴィレッジ』での演技に目を見張り、これからが楽しみな俳優のひとり。一方で作品全体を俯瞰すると後半の展開の出来すぎ感が否めず、後半になればなるほど白けだした自分がいた。つまり施設での再会から動画配信、再収監後の面会そして再審判決と死刑確定者として重要な流れではあるが、前半の暗い流れと比較して短期間に彼を取り巻く状況の落差が大きすぎた印象。支援者たちが鏑木に興味を持つきっかけが彼と交流して実際の人間性を知ったためである点もまったく非現実的であり、そのうえ鏑木慶一の人物像が冤罪でありながら少年死刑囚となり、頭脳明晰、人格優秀といういわゆる分かりやすい"かわいそうな"悲劇の主人公だったのも気になったところ。せっかく横浜流星が演じるのだからもっと深く感情を描いてもよかったのでは。その方がこの難しい役柄により厚みが出たのではないだろうか。細かいことを言えばきりがないが、とはいえ2時間飽きることなく楽しめたし満足度の高い作品であることに間違いはない。