Yoko

CURE キュアのYokoのレビュー・感想・評価

CURE キュア(1997年製作の映画)
4.4
 死体の首にX字の傷をつける得体の知れない連続殺人事件を担当する刑事と、記憶障害を患っている男との邂逅の物語。

 filmarksでは今作のジャンルを「サスペンス」と表記していますが、ネット上で転がっている論評にも散見されている通り、今作は「ホラー」としての側面が強く、そのように扱った方がこの分かりづらい作品を少しでも理解できる観客のための手段としても適切であると判断します。
 今回の作品が訴える恐ろしさの根源になっている概念は「底なし」だと考えてます。
「底なし」、例えば「掴みどころがない」と換言すればそれは正体が分からない未知なるものに対する恐怖、「終わりがない」と換言するならばそれは連綿と続く悲劇としても受け止めることもできます。
 それでいて今作のタイトル『CURE』が意味する「治療」、または「救済」といったテーマを「底なしの恐怖」と結びつけることで、殺人行為が「自分でもハッキリ分からないけど心地よい行為」として連綿と続いていく訳です。
この作品は「ハッキリ分からない」ということ自体がキモになっているのであって、俯瞰するとこの釈然としないストーリーと黒沢監督の余白ある手法が同じ方向を向いている事実に気づかせられて、この作品は非常に手の込んだものであると感嘆してしまいます。
 映像の演出としても、水や火の使い方が美しい。しかし、薔薇に棘があるようにこの美しい水や火もなんとなく怖い。人間の心の中を読み取ってくるような、そんな掴みどころのない怖さの演出はお見事と言わざるを得ないでしょう。
 
 「なんかよく分からないけどちょっと怖いな~」というような感想を抱える人が多いと予想される作品ですが、それこそが狙いなんだと思います。
野球場のナイターよろしく、際限なく照明をビカビカに使ったあからさまで「分かっちゃう」ホラー映画なんか怖くないんですよ。
ジョン・カーペンターの『遊星からの物体X』なんかは人智を超えた宇宙からの飛来物に対する未知なる恐怖と、強烈なグロテスクイメージを帯びたSFX技術を組み合わせ、ただただおどろおどろしいわけではなく「未知」と「グロテスク」という二つの落差によって名作ホラーとして名を馳せている訳ですが、今作はSFX技術に代わって”CURE”を導入することで静謐なホラー作品として成就しているのではないでしょうか?
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