〈大事なのは、旅路ではなく到達点〉
◯映画について
見終わった後は、疲労感と「何かすごいものを見た」と言う感想が湧いた。
上映時間は、なんと3時間35分。
ただぶっ続けではなく、本編は100分ずつに分けられていて、途中で15分のインターミッション(休憩)が設けられている。
ホロコーストから逃れ、アメリカにたどり着いた建築家、ラースロー・トート。そんなアメリカの地で実業家ハリソンと出会い、彼からある建物の建築を依頼される。
冒頭、不穏な始まりからの音楽の切り替えで、物語へのワクワク感が一気に高まった。その後のカットやクレジットは、今までにない斬新な見せ方だったと思う。全体的に作曲の存在感が大きく、自分の好みだったようにも思う。
前半100分は、予告やあらすじである程度の予想できる展開だった。しかし休憩挟んでの後半100分は、思わぬ方向に話しが展開していくので、より目が離せなくなった。
本作のテーマは、〈移民〉。
第2次トランプ政権となり、移民への政策ががらりと変わったアメリカには、かなりタイムリーなテーマだと思う。
ただ、このテーマは今の日本にも当てはまることのように思う。
外国人の移住に関して、さまざまな意見が飛び交っており、近い将来決して無視できるような問題ではない。
移民との共存が可能なのか、そしてもし自分たちがそちら側の存在となってしまったら…
そんなことを考えたくなる映画だった。
◯映画を見て感じたこと(以下ネタバレがあるので、ご注意を!)
本作は、明確な描写のない空白が多くあったと思った。
・イタリアで何が起きたのか?
その後のラースローを大きく変えたと思われるイタリアでの一件。
画面が暗く距離が遠かったので、最初はハリソンがラースローに対して何をしているのか、判別ができなかった。一瞬レイプしているのかと思ったが、ベルトを手元に持っていっているように見えたので、首を絞めているのかとも思えた。
しかし終盤の妻の台詞から、前者なんだと理解した。思えば、序盤の娼館の前での台詞や、その後の壁に空いた空洞のカット(掘られた、ということの暗示?←言葉が汚くてすみません…)、などのヒントのようなものはあったように思える。
ハリソンが、自分たちによって生かされている存在であるという認識をラースローに対して持っていたら、弁えずに好き勝手にやっている彼に対して、怒りを持っていてもおかしくない。
そして、自分にはない何かを作り出す能力が持っている彼に対して、さらに嫉妬の感情も持ち合わせていたとしたら…。あの事件に至るのは、無理はないのかもしれない。
・ラースローとハリソンの対比
ラスト、個人の特展が組まれるほど名を残したことが明かされるラースロー。
一方で、ハリソンのその後や名前は全く出されていない(ハリソンは自殺したと予想)。
移民であることでラースローの自尊心を傷つけたハリソンだったが、結局名や業績を残したのはラースローの方であったことが、なんとも皮肉だなと思った。