はぐれ

ブルータリストのはぐれのレビュー・感想・評価

ブルータリスト(2024年製作の映画)
3.8
逆さの自由の女神に逆さの十字架。「この国はあなたから何を奪ったの?」とは妻が主人公のラースローに投げかける台詞。

ホロコーストを生き抜いたハンガリーを代表する建築家が移民の国アメリカで受ける理不尽な仕打ちの数々。自由とは名ばかりの排他的な白人社会の描写が現在のトランプ政権の政策と否が応でもリンクする。聞けばトランプ大統領が第一次政権時代にブルータリズムの建築は美しくないと私見を述べ、政府関係の建築にブルータリズムを用いることを禁止する大統領令を出したことが今作を制作するきっかけとなったらしい。

その大統領令に反発するかのように「美の核芯」をブルータリズムに見出す主人公のラースロー。とりわけガイ・ピアース演じる実業家のハリソン邸図書室を改築する場面は息を呑むほど美しく、その無駄のない機能性とデザイン性は卓越した建築が時代や国境を楽々と越えてくれることを証明してくれる、この映画で一番の多幸感溢れる名場面だ。

階級的な古典主義が霞むほどのダイナミズムを持ち合わせたブルータリズム。その素材剥き出しの豪快で荘厳な建築様式の前では人間社会のヒエラルキーなんて一切通用しない。そんな今では廃れかけたイチ建築様式にスポットを当てて現代アメリカに巣食う病と真正面から対峙しようとした監督の試みは非常に革新的であり思わず拍手を送りたくなる。

15分のインターミッションを挟んでの215分もの至高の映像体験。こんな採算の取れそうにないニッチな企画を採用した大手スタジオのユニバーサル。ちょっと見直したかも🫠
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