まず冒頭から目をひくのが、60年代初頭のニューヨークを再現した美術の精巧さと、それを臨場感たっぷりに捉えた撮影の巧みさだ。
車、道路、建物、衣服、たばこの煙…
まるでスクリーンの向こう、グリニッチ・ヴィレッジの空気感が肌で感じられるよう。
この映画がデジタル撮影だというのだから驚かされる。最新技術と優れた作り手の創意工夫が産んだこの賜物を何としても讃えようと、開始数分のうちに私は意を固めた。
ティモシー・シャラメを筆頭に役者陣も軒並み素晴らしい。
ピート・シーガーを演じたエドワード・ノートン、スーズ・ロトロ役のエル・ファニング、ジョーン・バイエズ役のモニカ・バルバロ(彼女を観たのは初めてだったが感服した)等々。
シャラメの仕草、歌声は本当にディランそっくり!
かなりのハードスケジュールをこなして近年のハリウッドを支えてきた彼だが、その合間を縫ってディランの研究に相当の年月を費やしたのだと思われる。
特筆すべきはハーモニカの見事な腕前だろうか。体感3分の1以上は歌唱シーンが占める本作の個人的ベストパフォーマンスは、映画のちょうど半分ぐらいで演奏される『時代は変る/The Times They Are A-Changin'』。
陽の射すニューポート・フェスのステージ、ディランそっくりのハーモニカと歌声、客席で一人寂しげなエル・ファニングの表情の移ろい…
ここでも際立っていたのが、臨場感たっぷりの映像とシャラメの憑依芸。くどいようだが、その素晴らしさに尽きるのだ。