スローモーション男

ECCEのスローモーション男のレビュー・感想・評価

ECCE(2024年製作の映画)
3.6
 東京学生映画祭入選作品

SNSで有害なコンテンツを削除する仕事をしていた男が実験をするが、次第にそれを企画した学者3人が狂っていく。

 色々な宗教観による現代社会の批判に見えて、それら物事を遊んでいるような物語でした。

 タイトルシーンが『パーフェクト・ブルー』、教授が顔面血まみれで歩いてくるのは黒沢清の『復讐』みたいな引用があったり、お!っと唸らせるようなカメラワークが多かった。序盤戦、カメラが変な動きをして違和感あると思ったら、車イスに乗った男の主観映像だったと分かるシーンなど、意図的に構図やカメラワークを組んでいるのが分かる。

 また、グロテスク描写がほとんどないのに恐怖を想起させるのは有害コンテンツの内容を正確にセリフで言うので観てるこちらも勝手に想像してしまうし、再現映像を作る際も本当に首を吊ってしまわないか焦る。そんな低予算だからこそできた技であり、演出も上手かったです。

 ただ、音に関してはバラつきがあってセリフが聴こえないシーンと逆にでかすぎるシーンがあった。前作を観ていないが金子監督はTAMA映画祭でも音を指摘されてるみたい…。

 あと車イスの彼が主人公かと思ったら全然出てこなくて、学者3人ばかりフォーカスされていたので、彼の物語をもっと見たかったです。どうも学者たちには入り込めなかった…。そういう狙いだと思いますが。
 でもクリスマスの日に楽しそうに話す子供たちを観ながら泣いている主人公のショットがめちゃくちゃ良かった。俺はこうなれないという羨ましさが伝わってきた。

あと、テンポが遅いかも…。
個人的にはブレッソンを観たときのような映画は上手いけど好きではない作品です。

 最終的な結末はよくわかりませんが、監督がキリスト教を嫌っていて、ベルイマンやランティモスを目指しているのだなと感じた。3人目の学者が分裂させた自分と対話するシーンでTシャツのキリスト壁画が、対話終わりに修理してできたヘタクソなキリストに変わっていたのを確認して、ふざけたかったのかなと思いました。

『瀉血』という作品を観ていないので見てみます。