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ファーゴのbluetokyoのレビュー・感想・評価

ファーゴ(1996年製作の映画)
4.1
町山智浩さんの解説が前後に付く。
ストーリーは、カネに困った自動車販売店営業のジェリーが妻を誘拐させて、義父から身代金を奪うことを計画し、実行する。ところが、いろいろな行き違い、不手際などによって、犯人たちは、次々と殺人を犯し、最終的に、主人公の警察署署長、マージが犯人を捕まえて終わりである。
映画世界の構築は、もちろん、出産を二か月後に控えた署長のマージである。
冒頭、誘拐実行犯が使用する車を牽引しつつ、ジェリーが、犯人たちのもとへ現れる。しかも、一時間、時間を間違えている。計画では8万ドル、当時のレートで、日本円で800万円である。そのうち、400万円は犯人たちが取り、残り400万円はジェリーが取る。
犯人が、そんな面倒なことをしないで、直接、義父から貰えばいいだろ、と言うが、実に真っ当な反応だ。それ以前に、誘拐事件のリスクと金額が釣り合わなすぎるのである。誘拐事件であれば、かなりの確率で警察に通報され、面倒なことになってしまうのだ。
どうしてそんなことに思い至らないかは、警察署長のマージが映画世界を構築しているので、その部分はないことになっているのだ。さらに、犯人たちが目撃者たちを殺害した現場で、マージが鋭い推理を働かせるが、彼女が映画世界を構築しているので、当たり前なのである。
ここで、町屋智弘さんの映画解説について気になったところ。
映画の冒頭のテロップ。この映画は本当の事件をもとにしている云々、という部分。町屋智弘さんは実際に事件、三つを上げて、本当にありました、と述べている。だが、映画世界で本当の事件、と言っている時点で、百パーセント、フィクションなのである。探せば、類似の事件はあるだろうし、参考にした実際の事件もあっただろうが、あくまでも、映画世界でのテロップ、つまり、リアル感を持たせるための表現に過ぎない。ドキュメンタリではなく、百パーセント、フィクションなのである。
おそらく、表現手段ということと、もう一つ、偶然に実際の事件と似てしまったがために、その事件の関係者がなんらかの行動を起こすことに対する法的かつ予防的な措置であると思われる。
つまり、百パーセント、フィクションなのである。にもかかわらず、実際の事件でした、というのは、問題がある以前に、作者の意図に反する行為ではないだろうか。
唐突なマイク・ヤナギタの登場シーンについての町山智浩さんの解説。マージにマイク・ヤナギタが会いに来るのだが、彼の妻が亡くなった、ということらしい。あとで、他の人に聞くと、彼が妻と言った女性は亡くなっていないし、結婚もしていない。付きまとってただけ、ということがわかった。そういうシーンだが、そのことにより、マージは人はウソを付くことがわかった、ということである。そこから、ジェリーが浮上してくる。
マージって、何歳ぐらいなのだろう。何歳という設定はわからないが、四十歳前後ではないだろうか。警察署長を務めているぐらいなのだ。ちなみに、マージを演じたマクドーマンは、当時、三十八歳である。で、そんな人物が、人はウソを付く、なんてことを、あらためてわかる、そういうことがあるだろうか。どう考えても、それは、あまりに幼稚で表面的な理解の仕方である。そもそも、では、なんで、マイク・ヤナギタが、日本人みたいなのであろうか。そんなことを知るためだったら、わざわざ、こんなキャストを選ぶわけがない。その説明をするべきである。
マイク・ヤナギタが、日本人みたいなのは、この映画が上映されたのが、1995年ということと無関係ではなないはず。当時、日本人、日本車は、アメリカを席巻していたのだ。そんな日本人が、マージの前でめそめそと泣きだし、実は、マージにぞっこんだった、というのである。マイク・ヤナギタの登場が何を意味しているのか、という手掛かりになるはずだ。ここで町山智浩解説から離れる。
まず最初に、この映画で大切なことは、冒頭からの様々な出来事から、マージ登場のシーンへ切り替わるとき、マージは寝ていた、ということだ。警察からの電話で起こされたのだ。とすると、これは、マージの夢かもしれないのである。夢落ちとまでは言っていないが。そう考えると、マージの名推理も、最後にふらっとムース湖に行ってみると、たちまち、犯人を見付けるというくだりも自然ではある。
誘拐実行犯でこの映画を駆動させている、ヘンな顔のカールとなにも喋らない不気味なゲアのコンビは、なんだろうか。この二人こそ、マージと彼女の夫のノームを暗喩している存在なのだ。とくに、ゲアとノームは、本当にそっくりだ。
なぜ、日本人みたいなマイク・ヤナギタが、登場して、ウソを付いたのだろう。マージの目の前のマイク・ヤナギタは、びしっとスーツを着こなしていたのだ。そう、成功してカネを持っているので、女に逃げられていて結婚できないでいるということを言えなかったのだ。だから、ウソを付いてしまったのだ。
ジェリーはどうだろう。ジェリーも成功して、カネを持っていそうである。とても、カール、ゲアみたいなチンピラと接点がなさそうなのだ。でも、成功し、カネを持っているからこそ、身動きできずに、犯罪に手を染めてしまう場合もあるのである。
冒頭に戻ってみる。誘拐を持ちかけられた時に、チンピラのカールは、それなら、直接、義父に貰えばいいだろ、と率直に疑問を口に出す。その通り、目先必要なのは、たったの400万円なのである。だが、ジェリーは、成功者でカネも持っていて、家庭も持っているからこそ、義父に頼めなかったのだ。もし、カネが必要だと義父に打ち明けていれば(バカにされるだろうけど)、何のことはなかったのである。
マージが、マイク・ヤナギタの話で、ジェリーについて、気付いたのは、以上のことである。
殺しまくった不気味なゲアにそっくりな、マージの夫、ノームとは、どのような人なのだろう。ほとんど情報はないが、わかるのは、画家らしいこと、図柄が切手に採用されたらしいこと、ぐらいだ。
成功して、カネを持っているジェリーのことがあらためてわかるぐらいだから、成功はしていないし、カネも持っていないことはわかる。マージは警察署長だが、その給与がどのくらいかわからないが、だとすれば、ノームは、ほとんど、無給状態なのかもしれない。逆に、カール、ゲアみたいなチンピラのことはよくわかっている。むしろ、そちら側と言ってもいいぐらいだ。
一番最後のシーンは、事件が終わったところではない。再び、ベッドの中である。これが、夢落ち映画では、と思えるところでもある。ここで、夫のノームが自分の絵が切手に採用されたけど、あんまり使われない切手だと言う。それを聞いたマージが、将来の使われる場合を言って、慰めるのだ。
この慰めこそが、ファーゴという映画のテーマである。成功もしないし、カネとも無縁な人の慰めなのである。
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