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お引越し 4Kリマスター版のanemoneのレビュー・感想・評価

お引越し 4Kリマスター版(1993年製作の映画)
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あまりにも衝動的で刹那的で、萌葱色のシャツを着た少女が本当に目の前を駆け抜けていったようだった。

ヨゴラス・ラモンティスのように家を撮るでも、ジャック・リヴェットのように街を撮るでもなく、"人"を撮ったホームドラマ。

私のこと好き?
そう聞くと心が病んでいると言われるけれど、子供の純粋な問いかけに人間誰しもが持つ素直な疑問だと気付かされる。

鈴木清順のように幻想的な火の赤と、マジックアワーの深い藍。レンコの白い衣装が徐々に染まってゆく様子と祭の盛衰のコンビネーションが素晴らしく美しい。
完璧に作られた懐かしさ、生活音。
これは日本映画の美学そのもの。

京都人の奥ゆかしさと、相対的なカラッとした意地悪さ、とても分かるし私は好き。
賀茂大橋や京都文化博物館、祇園祭など京都に住んでいると馴染みの場所が出てくるけれど、河原町の小学校(現京都市学校区史博物館)に通うレンコは、京都のリセエンヌのよう。
京都の街を我が物と駆け回るその姿は、パリの中心地に暮らすペパーミントソーダのアンヌを彷彿とさせる。

田畑智子さんの演技は、生々しく、それでいて清涼感があって好きなのですが、この作品のストレートさには度肝を抜かれました。
"不甲斐ない僕は空を見た"で演じた女性の揺らぎや、行きどころの無い母性にも劣らない強い生命力を感じる。
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