岩嵜修平

敵の岩嵜修平のレビュー・感想・評価

(2025年製作の映画)
3.7
日本版『ファーザー』な認知症高齢者視点の虚実入り交じる話かと思いきや、これは、なかなか読み解き甲斐がありそうな。長塚京三演じる元大学教授が、天才柳沢教授ぽい規則正しく清廉潔白な紳士然としているので、いよいよ現実と妄想のギャップがキツい。独居老人の成れの果て。

フランス文学が好きな教授なんざ助平に決まっている(偏見)のだが、それにしても、あの年まで若い女性との色恋沙汰を夢想しなければならないのは、何ともキツい。原作は筒井康隆による1998年の作品でパソコン通信経由で「敵」を知るが、いよいよネットが前提となった社会での陰謀論傾倒の恐ろしさ。

「敵」という存在も、このご時世「はいはい、認知症」「はいはい、陰謀論」などと言ってられない状況になっているので、あの知的な長塚京三でもこうなってしまうかもしれないという説得力が凄い。流石に難民描写は古くないかとも思ったが、あのくらい非現実的(戦時の想起?)の方が今は適切なのかも。

吉田大八監督が影響を受けた作品として、デヴィッド・ロウリー 『A GHOST STORY』と『ツイン・ピークス』S3を挙げていたのも印象的。なるほど霊的な存在が、どんどん実態を持っていく物語。儀助が最後にどうなったのか誰もわからず、ラストシーンに何があったのかも分からない。でも分からなくて良い。
岩嵜修平

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