Hiroki

アリス・クリードの失踪のHirokiのレビュー・感想・評価

アリス・クリードの失踪(2009年製作の映画)
3.3
友達にオススメしてもらったのだがこれはダメだった。

何がダメかというと、まず3人のほぼワンシチュエーションでこの登場人物の3人のバックグラウンドみたいなものを描かない時点で、かなりテクニカルな面に振らないといけないんですよね。

例えば誘拐されたアリス・クリード(ジェマ・アータートン)が大金持ちの娘なのに父親から遺産をもらえないという設定が出てくる。
じゃなぜ父親から遺産が貰えないような状況なのか?とかね。
誘拐犯のダニー(マーティン・コムストン)とヴィック(エディ・マーサン)は刑務所で出会ったという設定が出てくるけど、なぜこんな誘拐をする事になったのか?とか。
そーいう3人のバックグラウンドを描きつつエモーショナルなヒューマンドラマ系の話に持っていくという手もあったと思うけど、今作ではとりあえずそこは切っている。

なのであとは3人劇・誘拐・ワンシチュエーションという状況をいかに上手く見せるかにかかってくる。
で途中まではとても上手くできていた。
サイレントで進むオープニングも良いし、ヴィックはプロで誘拐の手際も素晴らしく、ダニーは素人だけど“人たらし”でヴィックともアリスとも知り合いというキーマン。
アリスはとにかくどーやって逃げるかを考えている。
この3人の心理戦は見応えあるし、舞台とかでやっても面白そう。
しかし問題点は後半の締めくくり部分。

これは有名な話だけど身代金誘拐で1番リスクがあるのは身代金の受け渡し。
なので古今東西のミステリー/サスペンスモノであらゆる身代金の受け渡しが試みられてきた。
しかし良い受け渡し方法というものは見た事がない。
まーそんなものがあれば実際の世界中の警察は大変な事になるけど。
それは置いておいて、なので今作でも身代金の受け渡しをどーするのか注目してたんですよね。
そしたら…丸々カットしてやんの。
ヴィックが受け渡しに行って、次のシーンに切り替わるともう身代金を受け取った後。
これ警察が介入しないパターンでは何事もなくうまくいく事もあるんですけど、警察が介入してる事を示唆するシーンが途中ありましたよね?
まーでも警察は受け渡しさせといて相手の仲間やアジトや人質の場所を探るパターンもあるのでとか思ってたけど…最後まで特に何もなく。
これはダメです。
あと途中でアリスが警察に電話して逆探知で場所わかるって言ってたのにその後特に何も起きなかったのはなぜ?
警察ナメてるのか?

こういうクリエイターが自分の持っていきたい方向に行くために事実やリアリティを削いでいく行為は嫌いです。
特にテクニカルな方向に自分で振ったのだからなおさらですよね。

でよく考えていくとそういうシーン多いです。
ダニーがアリスに銃を奪われるシーンとか。
ダニーがトイレから出てこないだけでヴィックがトイレの壁を打ち破るシーンとか。
手錠でダニーを繋いだ後にアリスがまたやられるシーンとか。
かなり無理やりよね。
もうここらへんも自分が考えた帰結に持っていくためにそうしましたという感じ。

最後アリスが身代金を持って逃げる=タイトルに繋がるシーン。
ここけっこう称賛されてるのネットで見たけど、普通に考えてそんな簡単に逃げられないからね。
例えばもう1人背格好の似た女の登場人物がいてその女の死体を焼いて近くに自分の身分証を置いて逃げるくらいの事は最低限してもらわないと。
何度も言うけど警察のいない国の物語なのかな?

結局クリエイターの机上で作られた物語から脱却出来なかったという印象。

基本的なプロットは凄く面白いし、登場人物3人の演技も良かったので、ただただもったいないなーと思いました。

2021-5
Hiroki

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