1925年(大正14年)の第２回キネマ旬報ベストテン第 1 位（芸術映画）。「フリークス」(1932)の原型とされる一本。監督・主演は同年の伝説的前衛映画「人でなしの女」(1924)で助演したジャック・カトラン。製作は同作の監督マルセル・レルビエ。

スペイン・トレドの町へ巡業の見世物サーカス団。ピエロを演じるリケットと妻ラルダは団長ブッファロから惨めな扱いをされていた。座長はラルダに手を出そうとするが拒まれ、舞台で踊る彼女に狂暴なライオンを放つ。。。

主演のピエロのメイクが「第三世代」(1979)でのハンナ・シグラとそっくり。前半は見世物サーカス団の混沌とした舞台を延々と映し出す。狂騒は感じるものの過激な出し物があるわけでなく少々飽きてしまうが、永久回転を続けるピエロに高速でモンタージュを挟み込む編集は「鉄路の白薔薇」(1922)を連想。同作のアベル・ガンス監督と本作を製作したマルセル・レルビエは共にフランス前衛芸術家集団「第七芸術クラブ」のメンバーで、大きく影響しあっていたことが垣間見える。

大きなプロットは「フリークス」と似ている。しかし復讐譚はなく、起承転結の「転」が弱いためストーリーは物足りないし映像も荒い。それでも、当時のフランス前衛映画の香りは充分に漂っていた。今井正監督や評論家の双葉十三郎氏が、青春の思い出の映画として本作を挙げている。

同年アメリカでは、スウェーデンから招かれたヴィクトル・シェストレム監督がロン・チェイニー主演で傑作ピエロ映画「殴られる彼奴」(1924)をモノにしている。方向性が違うので単純には比較できないが、個人的には同作の方が断然好みだ。

その場所でしか生きられない者たちの薄汚れた負の感情が剥き出しになるからサーカス（見世物小屋）映画は好き。異常な回転、ライオンに噛みつかれる妻、フリークス、妬みと欲望。