1995年1月、ムンバイで開催されたインド国際映画祭の会場は騒然としていた。マニ・カウル初の官能作品が出品されたからだ。インドには文学や絵画など多くの官能芸術の歴史があるものの、やはり裸体が上映されるとなって警察が出動するほどの騒ぎになったようだ。上映も一度しか許可されなかった。そもそもの企画はドイツ人プロデューサーのレジーナ・ツィーグラーが持ち込んだ"Erotic Tales"なる短編集の企画であり、スーザン・シーデルマン『マリッジブルーの愉しみ (The Dutch Master)』やケン・ラッセル『カーシュ夫人の欲望 (The Insatiable Mrs. Kirsch)』などと共に長編映画になっていたらしい。実は、日本でも"アート・オブ・エロス 監督たちの晩餐"という括りでDVD箱が出され、先出のシーデルマンやラッセルの作品はソフト化されているのだが、カウルの作品だけは完全にスルーされていた。