人喰いうなぎ

カップルズ 4Kレストア版の人喰いうなぎのレビュー・感想・評価

カップルズ 4Kレストア版(1996年製作の映画)
5.0
個人の人生は引いた目線で見れば交換可能な虚像に過ぎないという諦観めいた物の見方がエドワードヤンの映画には常にあり、よってカメラは基本的に監視カメラのように被写体の熱には寄り添わずに一定の距離と深度を保ったまま撮影される

が、10年ぶりに観たこのカップルズはちょっと様子が違う
劇中2回被写体がカメラ目線になるカットが出てくるのだが、カメラが目線の内側に入るというのはエドワード・ヤンの映画では大変稀なことだ
あの有名なラストカットも深度は浅く後景はボケ、キスをする二人に”寄り添って”撮られている

前作『恋愛時代』の撮影中に作られたドキュメンタリー『映画が時代を写す時』の中で、これから作りたい映画を問われたエドワード・ヤンが「スリラー、サスペンス、アクション」と応えているのだが、どうもカップルズはエドワード・ヤンなりに「スリラー、サスペンス、アクション」なジャンル映画を作ろうとしたようなのだ

最終的には銃撃に行き着くやり取り、取って付けたようなハッピーエンドに向かうルンルンを囃し立てる下宿の外国人たち
やたらアメリカンだ
ポスターや国旗などの意匠の問題ではなく”アメリカンな映画”が意識されているように思われる
だからカメラは平気で目線の内側に入り(そもそも小津安二郎の文体がアメリカ映画の奇形なのは周知のとおりだ)見つけた死体やヤクザに驚いて見せる
カメラが被写体に寄り添うことによるポップさがエドワード・ヤンの映画の中でも例外的にある

正直『恋愛時代』のトレンディさは苦手なのだが、世紀末アメリカ映画の奇形としてのカップルズはかなり好きになった




どうでもいいけど今観るとレッドフィッシュが久保建英に似てるな