2023年のマティアス・ゴカルプ監督作品。彼の祖母はカルチエ・ラタンで映画館を経営していたのでごカルプは幼い頃から映画館に通い、10歳の頃にはすでにスーパー8で映画を撮り始めていた。学生時代には静止画で構成されたフィクション『L'Or des blés(1993)』やディドロ作品を原作とする『Un acte d'amour(1995)』などの短編や極右政治家のドキュメンタリー作品『Salvatore Nicotra』を撮っている。彼の長編劇映画のデビューは2009年の『Rien de personnel』である。この作品は製薬会社の社内パーティーが行われるが、このパーティーは会社が新しい経営方針の導入のための適正テストであり、知らぬまに社員たちは試され監視されているという内容だ。同じ時間、同じ場所で起こる物語を、視点を切り替えて3度描くこの作品は企業スリラー版『羅生門(1949)』とも言えるスタイリッシュな構成で労使の問題を描いている。 劇映画としては2作目になるのが本作『アッセンブリー・ライン』だ。本作はフランスの作家ロベール・リナールの同名の回顧録に基づいており、資本主義と労働運動の狭間で揺れる主人公の名前も作家本人のロベール・リナールである。本作の原題である「L'Établi」とは定着者の意味で、1960年代後半から極左活動家が内部から仕事を理解し、来るべき革命を準備するために工場や田舎で雇われた人々で、大半は中流階級出身の学生や知識人であった。
ゴカルプ作品では『Rien de personnel』のパーティーの空間が「使える人材」演じるという意味で演じるための空間となっているように映画が演劇の舞台のように機能する。本作でも板の上ではなく工場が演劇の舞台となる。ロベールの就職の面接はさながらオーディションのようであり作業着を着込むのも衣装替えのように感じられる。理想と現実、知性と肉体、連体と孤立といったものの矛盾をロベールの工場での労働、つまり演じることで炙り出している。