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幽霊の日記の消費者のレビュー・感想・評価

幽霊の日記(2025年製作の映画)
3.8
・ジャンル
SF/ドラマ/ショートフィルム

・あらすじ
舞台は茨城県稲敷郡
地元の人々に愛されるレストラン「ニューかわぎし」の上空には謎の異次元構造物が浮いていた
‘96年当初は物が少し動く程度で店主のフジオと息子のショウはあまり気に留めていなかった
しかし眠剤が客の食事に混入するなど時の経過と共に影響が出始めるとそうも言っていられなくなり、霊能者を呼んだりとフジオは不安を募らせていく
そして2021年、ショウが店を継いだばかりの時に事は起きる
異次元構造物によって生み出された並行世界にショウは飛ばされ、他の人間はそこにはいない
彼は孤独な空間へと放り込まれてしまったのだった…

・感想
奇妙な世界観の短編を手掛けているプロジェクト、NOTHING NEW製作のSF作品
YouTubeでの期間限定公開と共に話題となっていたので鑑賞

どこにでもある様な都会過ぎず田舎過ぎない絶妙な景色とそこに息づく日常
そんな環境とはおおよそ不釣り合いな上空の構造物
そしてそれが生み出す人地を超えた現象…
真逆と言える空気を放つ舞台と物体が見せる過去、現在、未来、並行世界は希望と絶望が入り混じった感情を湧き立たせ正体はおろかあらゆる謎が解明されない
だからこその困惑と苦悩しか生まず鎮座する構造物の不気味さが妙に生々しく迫力があった

誰かに届く可能性が極めて低い中、各地を放浪した後に地元へと帰って来るショウ
彼の彷徨い苦悩する姿は現実離れした設定を介していながらも過去や未来に干渉する事が出来ないという事実のもたらす普遍的な不安を感じさせ面白い
それでいて説教臭くなるのではなく多くの人間がそうである様に孤独に生きるのが辛くとも死ぬ事はより怖いというありふれた感情をただ強い実感を伴わせ感じさせるだけの世界観が最後まで貫かれる
描かれているのは絶望的な状況なのに妙な安堵感を観ていて抱くのは現実を生きる自分の不安と共通した物が感じ取れるからなのだろう

SFでありながら派手な展開があるのではなく最悪な結末を提示して来るでもない
しかし主人公でさえも何が出来るでもなく地道に淡々と生きていくしかない
そんな情景を介して描かれるのはどこまでも内面的な事で普遍的な希望と絶望のみ
何とも言えぬそのバランス感覚が先行きの見えない現代日本と被る様で興味深い世界観だった
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