カタパルトスープレックス

スリ(掏摸)のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

スリ(掏摸)(1959年製作の映画)
4.2
ロベール・ブレッソン監督版の『罪と罰』って感じの作品です。盗みも才能、社会の役に立っているんだから、法律で縛られなくてもいいだろ?

ドストエフスキーの小説『罪と罰』の主人公ラスコーリニコフと本作の主人公ミシェルには共通点があります。「選ばれた非凡人(superstar)は、その存在自体が社会にとって有益なので、法律から一歩を踏み外して良い」という独自の犯罪理論です。

しかし、違いもあります。『罪と罰』のラスコーリニコフは殺人でカネを奪い、そのカネを社会に役立てようとします。本作のミシェルはスリなので人殺しはしません。しかし、そのカネを社会に役立てようともしません。スリ自体がアートであり、刺激なんですね。

ラスコーリニコフは自首しますが、ミシェルはどうなるのか?という話です。そのきっかけとなるのは『罪と罰』の場合は娼婦ソーニャですし、本作の場合は母親の看病をしてくれた隣人のジャンヌですね。

あと、この作品で特筆すべきはカメラワークでしょう。モンタージュのつなぎもいいのですが、少し長回し気味にフォーカスする人物を徐々に変化させる手法。特に駅におけるスリ集団(奇術師カッサジとピエール・エテックス)のチームワークはカメラワークの見事さも相まって本作の見所の一つとなっています。

役者は主人公を含め、ほぼ素人たち。これがとてもいい効果を生んでいます。主人公ミシェルの感情の無さとニヒリズム。何を考えているのかよくわからない無表情さ。音楽もないので、とてもドライな印象を観客に与えます。これがブレッソンの持ち味ですよね。ブレッソン的ですごくクールな『罪と罰』でした。