Sari

お引越しのSariのレビュー・感想・評価

お引越し(1993年製作の映画)
4.1
2021/09/15 WOWOWプラス

没後20年 相米慎二監督特集にて。
1993年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門招待上映作品。
第44回(平成5年)芸術選奨文部大臣賞受賞。
原作は、ひこ・田中の同名小説。

「お引越し」というタイトルと、Filmarksに貼られているDVDジャケットから、イメージしたものではない作品であった。

小学6年生のレンコの両親は不仲による離婚を前提とし、父親が家を出て別居となる。
母親と二人暮らしとなったレンコだが、11歳の少女には離婚がどういう事なのかピンと来ない。しかし、働く母ナズナとの制約の多い二人暮らし、離れて暮らす父とたまに会う生活のなかで、複雑な感情が芽生えていく。

本作がデビューであるという田畑智子の魅力。オカッパの髪型はどこか仏映画のザジのようで、古風な日本的佇まいでもあり、好奇心旺盛で感受性豊かな少女を、瑞々しく洗練に演じている。
また別居した夫に対する複雑な感情と、娘との新生活において、悩み奮闘する母ナズナを演じた桜田淳子の演技も素晴らしい。

撮影が93年というこの時代によく訪れた京都のロケーションの景色。街の魅力(鴨川、大文字焼き、祭に集う人々、御神輿を担ぐ男達、浴衣の若い女性達、打ち上げ花火)、キャスト達の話す京都弁(関西弁)と共に、何とも言葉に表せない懐かさに涙が出そうになる。

レンコと両親が食卓を囲む冒頭、和室がある背後の薄紫の襖と、冷たく鋭い三角形のモダンなダイニングテーブルとのコントラストが家族の様子を物語るかのように、やけに印象的であった。

離婚の危機にある両親のやり取り、またその間にいるレンコの孤独感と寂しさは、残酷なほどリアルである。両親に対する複雑な思いに葛藤し、学校の同級生や、京都の街で出会う人々との交流によって少しずつ強くなっていく少女の成長物語を、秀でた想像力で紡ぎ描いていく。

父親が引越しで家を出ていく冒頭から京都の街の人間模様は、子供目線で描かれるリアリズムでありながら、祭の炎を見つめるシーンから段々と幻想世界へ入っていく。レンコは何処へ行ってしまうのだろうと胸騒ぎのする終盤での幽玄な幻想美とアングラ味を帯びた描写は、率直に寺山修司を想起した。本作鑑賞後に相米監督は、かつて寺山修司の助監督を経験していたと知り、納得であった。

木をすり抜けるとレンコが着せ変わり、人々が街角に集う軽やかで風変わりなエンディングまで、総じて魅力的で素晴らしい作品だった。
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