倦怠夫婦映画の傑作『テイク・ディス・ワルツ』でその才能に驚かされた女優兼監督のサラ・ポーリーのデビュー作を鑑賞。
こちらも素晴らしい作品。
アルツハイマーを描いた作品はそれこそ『きみに読む物語』とか『私の頭の中の消しゴム』とかあったけれど、これらがいわゆる“夫婦愛を描いた感動作”的な着地をしていたのに比べ、本作はまさしく“パートナーの片方がアルツハイマーになるとどういう困難が実際に起こるのか”ということを綺麗事抜きで、まざまざと描き出している点が素晴らしい。その手が!その展開があったか!と心底驚かされました。
割りと冒頭ジュリー・クリスティ(良い歳の取り方をされていて本当に美しい)演じる主人公フィオーナのセリフで、“映画館には行かないわ。ゴミみたいなアメリカ映画ばかりだから”と言うシーンがあるが、それは実に「反ハリウッド」精神の強いサラ・ポーリー監督ならではの本音でありメッセージだと感じ取れる。そんな彼女らしい作品だなと本作も思った。
また、老人ホームで主人公フィオーナを担当していた子持ちの離婚女性看護師の「まずまずの人生だった、なんて思っているのは大概男で、女のほうはそうは思ってないものよ。」という台詞に男の身として思わずドキッとさせられたりしました。
老人ホーム描写なんかも今まで見てきた映画の中でトップクラスで、ホームの老人たちの演技と立ち振舞いはもちろん、どこか寂しげで暗い雰囲気を漂わせる室内を捉える撮影なども一級品。
ラスト、旦那の表情が忘れ難い…
『テイク・ディス・ワルツ』と結末もある種そっくりで、人生とは本当にタイミングが悪くままならいもの。あの後まじでどうすんだ…とりあえず一見の価値は必ずある傑作です。