三樹夫

ハスラー2の三樹夫のレビュー・感想・評価

ハスラー2(1986年製作の映画)
3.7
主演は前作に引き続きポール・ニューマン、監督はスコセッシ、若トム・クルーズもぶち込んで惑星直列みたいな布陣で制作された『ハスラー』の25年後の続編。とにかくトム・クルーズの毛量が半端じゃない。ブロッコリーみたいな髪型してる。この企画は大手のエージェンシーから持ち込まれたもので(若干違うが日本でいう芸能事務所主導の企画みたいな感じ)、ポール・ニューマンやトムクルありきのパッケージングされた企画だった。今作では行われるビリヤードはナインボールとなっている。私ナインボールはしたことありまぁす!!
この映画が公開され80年代にビリヤードブームが起きたらしい。日刊SPA!の記事を引用すると、「86年、トム・クルーズとポール・ニューマンが主演の米映画『ハスラー2』が公開されると、日本中が空前のビリヤードブームに沸き立った。時はバブル、巷には、酒を飲みながらビリヤードが楽しめる『プールバー』が林立し、“ワンレン・ボディコン”スタイルの女子大生やOLが大挙して押し掛けた。いい女が集まる場所には当然、男たちも吸い寄せられる。そんなわけで繁華街のビリヤード場やプールバーはどこも大盛況、2時間待ち、3時間待ちもザラだった」とのこと。ダッ、ダセェ。

前作でミネソタ・ファッツに勝利しビリヤード師を引退したエディは才能を感じる若者ヴィンセントに出会い、彼を見込んで育てるというストーリー自体は王道なのだが、最後はエディがヴィンセントの前に立ちはだかる『巨人の星』的王道を行くのかと思いきや、「やめへんで~」とどちらかといえば『トップガン マーヴェリック』になるという変な映画。おっさんの心に火がついちゃって若者ほっぽり出して奮起しだす。『巨人の星』的展開を踏襲して終われば王道の映画だったと思うが、『トップガン マーヴェリック』へ行っちゃうと変わった印象を持つ映画となる。

前作より25年経ち時代は80年代になったことで軽薄短小な雰囲気が入り込んできて、以前のような勝負師の場は無くなっている。前作は「ミュージックボックスなんか置かねぇ、ここには玉突き台だけだ」みたいな硬派な時代だったのが、ビリヤード場にアーケードゲームが置かれているというので時代の変遷と軽薄化が表現されている。エディが昔通っていた玉突き場はもう無くなったし、ビリヤードはトーナメント大会になりスポーツ化されて、BGMではフィル・コリンズが「One More Night, One More Night~♪」と繰り返しているし、ビリヤード師はいなくなりビリヤードマンだけになっている。
しかし劇中唯一ビリヤード師が出てくるのだが、それがフォレスト・ウィテカーだ。『ハスラー』ではビリヤード師は社会階層の低い者が上へあがるための少ない手段となっていたが、そのため劇中唯一出てくるビリヤード師は本作においては黒人となっている。

マネージャーというか相棒というか、エディが途中までやっていることは『ハスラー』でチャーリーがやっていたことと同じだ。途中から火がついてビリヤード師になるけど。今作は前作にも増してどのようにしてトーシローからカモるかというシーンが続き、トムクルがずっと説教されている。『ハスラー』はすぐにミネソタ・ファッツという明確な敵が出てくるが、今作ではそれがなく、謂わば前作の冒頭のシーンが長く続くため、ガチガチにパッケージングされた作品ながらも観ていて変な映画の印象を持つ。トムクルの役は完全に子供という役柄で、こんなガキに俺の魂を預けることは出来んなとおっさんが奮起しだすのも分からなくはない。ビリヤード師に一番大切なのは“キャラクター”というのは前作より踏襲されている。『ハスラー』シリーズにおける“キャラクター”とは、人間としての厚みや精神性みたいな意味となっている。
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