netfilms

インベージョンのnetfilmsのレビュー・感想・評価

インベージョン(2007年製作の映画)
3.8
 宇宙から帰還するはずだったスペースシャトルのボディは突然大爆発を引き起こし、アメリカの各地に散らばるという原因不明の墜落事故が発生する。シングル・マザーのキャロル・ベネル(ニコール・キッドマン)は一人息子のオリバー(ジャクソン・ボンド)を女手一つで育てるために、ワシントンで精神科医として働いている。そんな彼女の元に、事件の調査チームの一員としてこの地に久方ぶりに帰って来た元夫のタッカー(ジェレミー・ノーサム)が息子のオリバーに久しぶりに会いたいと電話をかけて来るのだ。久しぶりの元夫の帰還は墜落事故と同時にヒロインのキャロルを不安に陥れる。単なる墜落事故に思われた出来事のあと、街では不可解な事象が相次いで発生していた。街でのてんかんのような発作や精神科の患者の焦燥、あるいはハロウィンの日に起きた忌々しい出来事など、今作はその不吉な予兆を丁寧に幾つも積み重ねる。多忙なキャロルにとって心許せる人物はオリバーの他にもう1人いる。友人でありよき相談相手でもあるベン・ドリスコル(ダニエル・クレイグ)は彼女の心の機微を見逃さない。

 ジャック・フィニイのSF小説『盗まれた街』の4度目の映画化である今作は、原作同様に一夜にして周りの人間が別人になってしまう恐怖を丹念に描く。原作の舞台はサンタ・マイラというアメリカ西海岸にある小都市だったが、ウォシャウスキー兄弟は世界規模に既に感染が拡がっていることをTVモニターで知らせるのだ。宇宙から飛来した半透明の未知のウイルスは皮膚や口を媒介にして、世界中で謎の感染症を引き起こしている。このウイルスに感染すれば、一度眠ってしまえば翌日は別人に様変わりしているのだ。『Vフォー・ヴェンデッタ』の脚本で全体主義への見えない恐怖を警告したウォシャウスキー兄弟は、またしても政府が対応ワクチンと称して未知のウイルスから抽出したワクチンを無自覚な国民に注射し、拡散したりする。眠ることで人はたった1日で別人へとなり果てる。それは外見は同じ入れ物だが、中身は別の何かになり果てる恐怖と言ってもいい。相変わらず兄弟の中では感染した人々の描写とミサンドリー解釈とは紙一重だ。ヒロインは人類の未来を守るたった一つの生を守るために孤軍奮闘するのだが、免疫を有する人物の区分のアイデアがやや予定調和的なのが玉に瑕だ。映画そのものはウォシャウスキー兄弟が監督するより遥かにスタイリッシュに仕上がっているのだが、何かが決定的に違うというヒロインの想像力までは映像化出来ずに終わる。ただコロナ禍で観るのは大変生々しく、今の想像力をもって観るべき作品だ。
netfilms

netfilms