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Myth of Man
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Myth of Man

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『Myth of Man』に投稿された感想・評価

kuu
3.7
『Myth of Man』
原題 Myth of Man
​製作年 2025年。上映時間 117分

スチームパンクとメルヘンが溶け合う異世界を舞台に、言葉を介さない無言劇として綴られる、孤独な魂のオデッセイ(長い旅路)。

真鍮の歯車が静かに噛み合い、古びたおとぎ話のページが風にめくれる――ー。。。
そこはスチームパンクの無骨な手触りと、メルヘンの淡い吐息が同居する、どこにもない異郷。
※スチームパンク。それは19世紀の産業革命期、ヴィクトリア朝の技術が独自の進化を遂げた「もしもの未来」を描くレトロフューチャー。
言葉を奪われた無言劇の中で、小生は主人公エラという魂が紡ぐ愛の模索を、ただ網膜に焼き付けることになった。
かつて『Ink』(2009年)や『The Frame』(2014年)で迷宮のような物語を提示したジャミン・ウィナンス監督は、今作でも能書きを一切排した純粋な映像美で、内面という名の深い問いを投げかけてくる。

​今作品の重厚なビジュアルの裏側には、ある種の狂気にも似た献身が隠されていた。
監督とプロデューサーのウィナンス夫妻は、この夢を形にするために自らの家を売却し、その資金をすべて銀幕へと注ぎ込んだそうな。
3,500を超える視覚効果、緻密な小道具、そして呼吸を忘れるほど美しい衣装の数々。
それらすべてを自らの手で生み出したという事実は、現代の量産型映画に対する、あまりにも孤独で、そしてプチ崇高な挑戦状といえるんじゃないかな。
デジタル技術を駆使しながらも、あえてアニメーションのような温もりやセピア調の奥行きを纏わせた質感は、低予算という言葉を嘲笑うかのような、贅沢でアーティスティックな気品に満ち溢れていました。

​物語を彩るガジェットもまた、詩的なメタファー(隠喩)として小生の想像力をズキズキっと刺激した。
ライターの小さな火を灯せば、そこには失われた記憶が揺らめき、背負った傘の布地には、抱えきれない内面の断片が映像となって映し出される。
説明を放棄したこのレトロフューチャーな舞台では、飛翔するファンタジーの一場面さえもが、人間の孤独や希望を象徴する雄弁な記号となる。それはもはや、視覚的に構築された哲学の迷宮です。

​そして、この音楽主導型の静寂を完成させるのは、ASMRのように繊細で、それでいて力強い音響デザイン。
言葉の代わりに物語を牽引するのは、金属が擦れる微かな軋み、遠くで響く環境音、そして、感情の機微を増幅させる音楽。
優しさと哀感、そして不条理な世界での愛。すべてを失ってまで描きたかったこの寓話は、言葉という枷を外したとき、心に直接語りかけてくるようでした。

​追記として、
真鍮の歯車が刻むリズムに乗せ、この迷宮に隠された言葉なき徴(しるし)をいくつか小生の妄想で紐解いてみたいです。
今作品において、先に触れたガジェットや現象の多くには、エラの魂が零した涙や祈りの結晶――すなわちメタファーが機能していると思う。

​記憶を灯すライターは、一瞬の邂逅と永劫の忘却であり、あの小さな火が映し出す記憶は、暗闇を照らす唯一の真実だけど、それは指先を焼くほどの熱を持ち、吹き消されれば二度と同じ形には戻らない。
これは、脳裏に浮かぶ過去がいかに脆く、それでいて現在の自分を突き動かす唯一のエネルギー源であることを示唆しとるのかと。
火が消えるたびに訪れるセピア色の静寂は、手放さなければならない記憶への哀惜を鮮烈に描き出します。

​背中の傘については、内面を晒す可視化された孤独やろし、本来、雨を凌ぐための傘が、今作品では内面の投影機として機能する。
エラが背負うその布地には、彼女が心の中に抱えきれなくなった感情の断片が、万華鏡のように映し出される。
これは、どれほど孤独を装っても、背後には常に隠しきれない物語が付き纏っているという皮肉、あるいは救いとしてのメタファーかな。
閉じれば自分を守り、開けば世界に自分を曝け出してしまう。そのパラドックスが、スチームパンクの意匠を纏って美しく提示されていた。

​それに飛翔の予感は、重力という名の不条理からの解放ってかんじるし、少しばかり、胡散臭い占い師のようになってきたが。
スチームパンク的な重厚な機械装置がひしめく中で描かれる飛翔や浮遊は、肉体という檻、あるいは生という重力からの解放を象徴し、鉄と錆の世界において空へ向かう意志は、不条理な運命に抗い、自らの創造主へと手を伸ばそうとする究極の反抗といえる。
重々しい金属の軋みが消え、無音の空へ放たれる瞬間、エラの愛の模索は一つの頂点に達する。

​そして、噛み合わない歯車については、失われた他者との接続であり、時折画面を横切る、回り続けるものの何にも繋がっていない歯車は、想いがありながらも届かない愛の空回りや、社会という巨大な機構の中で孤立した個人の象徴とおもえる。
エラがそれらを見つめる眼差しには、完璧に調和した世界(おとぎ話)への憧憬と、現実の不完全さ(スチームパンク)への深い哀感が、セリフ以上に雄弁に漂っていました。

​ウィナンス監督が私財を投げ打って作り上げたこの視覚的な哲学書は、解釈を急ぐ小生を、あえて真鍮の迷路の中に置き去りにした。
しかし、その迷子になる感覚こそ、今作品が提供する最も贅沢な内面への旅なのかもしれないなぁ。。。

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映画鑑賞メモ
20260505
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_Myth of Man
_Directed by Jamin Winans
_娯楽★★★☆☆
_前衛★★★★★
_瀟洒★★★★★
_感情★★☆☆☆
_社会★★★★☆
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レトロフューチャー、ディストピア、荒廃、時計仕掛け、蒸気機関、ヴィクトリア調、手仕事、ガラクタ、ノンプラスティック...
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へ〜こういう世界観ってスチームパンクって呼ばれてるんだ、初めて知ったぞ。
凄くチャレンジングな作品だな〜、世界観には強く惹かれる、ストーリーは入って来ないけど。
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#ミスオブマン
R41
4.8
Myth of Man

2025年の作品。
タイトルの意味は「人間の神話」

この映画は、まるでチャップリン作品のような無声映画だ。しかし決定的に違うのは、字幕すら存在しないことだ。

その理由は、主人公が聾唖者だから。

言葉を一切持たないこの世界で、観客は彼女の感覚そのものを追体験することになる。

舞台となるのは、デフォルメされた現代社会と近未来が混ざり合った世界。そこでは、人間性というものがほとんど失われている。

首元に生えた二本のラッパのような器官。肩に貼られた、寿命を示す発光ステッカー。死が近づくと赤く点滅するその光を、人々は極端に嫌い、近づこうとしない。

路上で人が倒れても、誰も助けない。

この世界では、死は忌避されるものであり、人間は互いに無関心であることが当然の習慣となっている。

主人公の女性は画家だ。彼女は思い描いたものをそのまま絵に描くことができる。

しかし彼女が無意識に描いていたのは、人の表情だった。

怒り、悲しみ、戸惑い、苦悩。彼女は、人間の感情というものに興味を抱き始めていた。

テロリストの男に見たのは、「美しい思い出を失った怒り」

万引きをさせた息子に「足らない」と暴力を振るう男に見たのは、「心の不自由さ」

人間の行動の奥には、言葉にならない感情が潜んでいる。彼女はそれを理解しようとしていた。

そのために彼女は、街の音や人々の声を録音し始める。

この世界では、毎日のように太陽のような彗星が空を横切る。人々はそれに祈り、願いをかけ、死者を偲ぶ。

それは、彼らに残されたわずかな信仰なのかもしれない。

ある日、彼女はバスの中で息絶えようとしている少年に出会う。本来この世界では、死にかけた人間に触れることは禁忌だ。

それでも彼女は、勇気を出して少年の手を握る。

その瞬間、彼女は少年の記憶や感情を共有する。

それは奇跡のような体験だった。

人の心の中には、思い出や感情という見えない世界が確かに存在している。

そしてそれは、誰の中にもある。

この共通性こそが、人間の共感なのだ。

しかしこの世界は、その共感を必要としていない。

人々は「不死の肉体」を手に入れることを望む。

首元のラッパを切除し、チップを埋め込めば、毒ガスにも耐えられる身体になる。施術を受けた者の身体は、玉虫色に輝く。

街には無料のルーレットがあり、当たりのカードを引けば誰でも施術を受けられる。

苦悩から解放される世界。

だがそこには、感情も消えている。

施術を受けた友人と再会した時、主人公が感じたのは、そこに心が存在しないという違和感だった。

それは人間ではなく、ただの器だった。

彼女は問う。

本当に、心を捨てた世界に価値はあるのか。

やがて彼女はテロリストの男のカードを奪い、自ら施術を受けようとする。だが、手術は途中で止められる。

ラッパは半分だけ切り落とされる。

その出来事をきっかけに、彼女の小さな気づきは連鎖を生む。シンクロニシティのように、人との出会いが重なっていく。

彼女は理解する。

死とは恐れるものではなく、生の美しさを生み出すものなのだと。

そしてもう一つ。

怒りや暴力の奥には、必ず苦悩がある。

一番光を必要としている人間こそ、怒りやテロという形で世界に現れる。

取り締まりや収監では、苦悩は消えない。

その救いはただ一つ。誰かが手を差し伸べること。

毒ガスは、人々のネガティブな感情が結晶化したもののようにも見える。

それを無効化するのが、「人間であることを捨てた身体」。

この世界 現代社会は、人間性を捨てることで成立している。

アルゴリズム。監視。データ化された人間。

思考をAIに委ねる社会は、やがて人間の思考力を弱体化させる。そうして世界は、反抗すらできない統制社会へと変わっていく。

この映画は、その未来への警鐘なのだろう。

それでも、このような作品が存在し続ける限り、人間性を失っていない人間がまだいるという証になる。

もしかすると映画というのは、人間性を守る最後の砦なのかもしれない。

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